第24話:蒼騎士
駐機場管理局事務所の一部を斬撃で破壊したエスパダは、さらなる一撃を加えようともう一度剣を振り上げた。しかし、その剣を振り下ろさずに地面を蹴って横跳びし、すぐそばにあった格納庫に走るや、その扉に剣を突き立てた。
一〇メートルほどの高さの木製扉の向こう側では、今しも出撃しようとしていたフォートレスがあり、エスパダの剣は扉を貫通し、その腹部を貫いていた。
「あっぶねえ……」
扉の向こう側のフォートレスの力が抜けるのを確認して剣を引き抜くと、激しい音を立てて機械が崩れ落ちる音が聞こえた。
そうしている間に周囲に目を向けると、城門外の英兵詰め所から大量の兵士たちが繰り出してくるのがユクシーの目に留まった。
「ほんと、後から後から湧いてくるな……。ユクシー、狙って外すなよ」
ユクシーはエスパダの左手を前に突き出し、内蔵型になったガンランスの射撃体勢を取った。誘導弾ではないので命中率は格段に悪いが、ボムランスであれば人間相手なら近くに落とすだけで相当な被害を出せる。
「当たれぇーっ!」
かけ声と共にトリガーハンドルを引くと間髪入れずにボムランスが射出され、英兵詰め所前で炸裂した。
「どんどん罪状が重なるな……」
ボヤキながらさらに周囲を見回すと、今度は駐機場奥の詰め所の方で人の動きが見えた。
その位置から狙うとすれば、エスパダやバレンシアでもなく、ドラグーン・バリシュだ。
「ユクシー! こっちは任せろ!」
その声に足下を見るとネビルが剣を掲げて合図をしていた。
『頼んだ!』
迷っている時間はない。
エスパダに地面を蹴らせ、全力でバリシュの方に向かう。
バリシュの近くでは船員たちが必死になにかを作業しているのが見えた。
『外に出ていてどうしたんだ?』
「ここの管理局の奴らが係留索を魔法で金属ワイヤーに変質させていたんです! それで外すことができなくて……」
『係留索が……?』
見ると確かに係留索が金属ワイヤーに変質していた。しかもご丁寧に地上の固定具に繋がる結び目は溶けて癒着していた。
『下がって。コイツでワイヤーを斬る』
船員たちを下がらせてからユクシーはエスパダの剣を振り下ろし、ワイヤーを切断した。
『バレンシアたちがすぐに逃げてくるはずだ。出航準備を進めておいてくれ!』
「了解です!」
ワイヤーを根元から切断できない以上垂らしっぱなしになるが、今ここでそれをどうこうしている状況じゃない。
「ユクシー! 後ろ後ろ!」
ボブの声に振り返ると、ボブとベル、そしてランディに向かってフル装備の装甲歩兵の部隊が向かってくるのが見えた。その後方には城の方から出てきたフォートレスの姿が確認できた。
ユクシーは剣を水平に構えさせエスパダを走らせた。
鋒を地面すれすれにして装甲歩兵の列に突っ込む。そのまま剣を跳ね上げ重量ある装甲歩兵数名を空に跳ね飛ばした。
「くっそ野郎がああああああっ!!」
装甲歩兵の一人が叫びながら手にしたバトルアックスを振りかぶったが、ランディの放ったガンランスの鉄槍に貫かれ、その斧を振り下ろすことは叶わなかった。
さらに文字通りエスパダが蹴散らした装甲歩兵たちに、容赦なくベルとボブの魔法が降り注いでいく。
問題はその後に続いてくるフォートレスたちだ。
『ここは俺が引き受ける。バレンシアと合流して、バリシュの出航準備を急がせてくれ!』
「ユクシー! 気をつけてねぇ~!」
「任せるのだ!」
『頼んだ!』
ユクシーの目はもう三人から離れ、迫り来るフォートレスに向けられていた。
型式はまちまち。フォートレスを国家軍が配備することを歴代の首長たちが中々よしとしてこず、周囲の軍備増強によって仕方なく現在の首長が配備を了承した。そのため他国のように統一装備はなく、フォートレスを操る騎士としての実力も国家軍としては最低と噂されている。
「その噂がどれほどのものか……試してやる!」
ユクシーは呟きをもらしながらエスパダを駆った。
躍りかかったエスパダに気圧され戦闘のフォートレスはつい一歩下がってしまった。そのため後ろからきていたフォートレスにぶつかり、敵前でバランスを崩すという失態を犯した。
『訓練からやりなおしてきた方がよくないか!?』
嘲るユクシーの声をもらしながらエスパダはバランスを崩したフォートレスの頭を跳ね飛ばし、さらにショルダーアタックをかけて後ろのフォートレスも押し倒した。
『ふたつ目!』
壊れたフォートレスを抱えて仰向けになり、ジタバタもがくフォートレスの頭部に剣を突き立てる。まるで返り血を浴びたかのようにエスパダの顔に吹き出した〝虫〟の体液が飛び散ったが、気にすること無く剣を返して打ち込まれてきたハルバートを受け流した。
『ハルバート使いなら、もっと凄いヤツを知ってるよ!』
返す刃で腕を斬り落としてハルバートを奪い盗り、クルリと柄を回してその尖った石突きで頭部を突き壊した。
『みっつ目!』
剣を鞘に収め、奪ったハルバートをエスパダは構えて辺りを睥睨する。
瞬く間に三騎一小隊を打ち壊したエスパダに、経験の浅い騎士たちは固唾を飲みつつ遠巻きに取り囲んだ。
まだ六騎のフォートレスがいるのだから怯える必要はないはずなのだが、異様なほどに滑らかな動きをするエスパダに気圧され、手出しすることがためらわれていたのだ。
『ええいっ! 一斉にかかれ!』
『それは悪手だよ!』
隊長の号令一下、クラウツェンのフォートレスたちは少し遅れつつ行動を開始した。しかし、先に倒されたフォートレスの残骸が邪魔をして一斉攻撃に入りこともできず、さらに長物を手にしたエスパダによって各個に撃ち倒されていくこととなった。
『あんたで九つ目!』
ハルバートの斧で隊長騎の頭をかち割りそう漏らした時、すぐそばを駆け抜けていくネビルたちの姿を認めた。
「ユクシー! 後ろと上だ!」
『後ろと上?』
背後を見ると性懲りも無く、新たなフォートレスが九騎ほど城から送り出されてきたところだった。
そして上は――
すでに点からその細部までハッキリと見えるほどの大きさとなった空に浮かぶ蒼いドラグーンが浮かんでいた。
『辺境領姫か……』
世事に疎いユクシーでもそれが誰の艦であるか分かった。
それほどまでに高名なドラグーンであるトロンペだ。
今ここで逃げるべきだとユクシーの勘が囁きかけていた。
だが、今ここで撤収すれば城から打って出てきたフォートレスたちにバリシュが襲われる。
『ここは俺が引き受ける。いざとなったら置いて脱出してくれ! 後で合流する!』
この状況で撤退の選択肢などない。
ネビルはなにも言わず、遅れがちになるガリクソンをせき立ててバリシュへと向かって走って行った。
「どう……戦えばいい……?」
そうユクシーが自問した時、まだ高度にありながらも上空のドラグーン・トロンベが格納庫のハッチを開いてフォートレスを空中投下した。
土煙を上げて着地した機体。
青紫と蒼い色調でまとめられた装甲板をまといながら、女性的に細いフォルムを持つフォートレス。それは白金のスカートにさしていた細剣を引き抜き、
「蒼騎士……アイオライト……」
東部地域において伝説的に語られる辺境領姫のフォートレスだった。
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