第43話 呪いの相手
「ずっと部屋にいたら図書室にいないことがバレてしまう。戻ろうか」
「はい、そうですね」
———お父様に心配をかけてしまうとダメですよね。
二人はサミュエルの部屋を出て、階段を降り司書がいる一階のロビーへと歩いていた。
「なんだか騒がしいね?」
「そうですわね」
どうやらロビーに人だかりが出来ていた。どんどんと人が集まってくる。
「何があったのだろう? 僕たちも行ってみよう」
「はい!」
二人は早足で人集りができている場所へと向かった。
「場所を開けてくれ! 僕は第三王子のサミュエルだ」
人が集まりすぎてこれ以上前に進めないので、サミュエルが王子であることを明かし集まった人たちに避けるように伝える。
サミュエルの声を聞いた人たちは、二人の前から蜘蛛の子を散らすようにいっせいに退いた。
目に入ったのは……。
「ディービット……!」
中央には胸を押さえ苦しそうに横たわっていた第二王子の姿があった。
そんな第二王子のそばで、心配そうに手を握っているのは司書のサイフォンだ。その横には治癒師が二人、必死に魔法を使って治癒をしている。
第二王子の体を先ほど消失した黒い瘴気が覆っているのだが、どうやらそれは周りにいる人たちには見えてない様子。黒い瘴気はかなりの大きさに広がっているので、もし見えていたら騒ぎになっているはず。
「そんなっ、どうして……」
サミュエルは目の前の事実が現実のことなのかと……口元を押さえ固まってしまった。
———……そんな! 嘘でしょう!? サミュエル様に呪いをかけたのが双子の片割れでもある第二王子のデービット様だなんて……どうしてそんなこと!
アルビダもサミュエルと同じように、横たわるデービットを前にして固まる。
先に冷静になったサミュエルが、デービット王子に近寄り体を抱き起こす。
「デービット! どうして君がっ」
僕に呪いを……と続けて言いたかったのだが、サミュエルは色々な感情で感極まり言葉に詰まる。
そんなサミュエルを、デービットが顔を歪め苦しそうに見つめ。
「ぼっ、僕まで同じ病気に……なってしまった。やはり……僕たちは一心同体だね」
デービットはそう告げると目を閉じた。
「なっ、何を言ってるんだよ! 君は僕をっ……」
サミュエルは『病気ではく自分のことを呪ったんだろ』と、デービットのことを詰めたかったが、周りに人が多すぎる。こんな所でそんな発言は王家の威厳にも関わると思い諦めた。
「サイフォンさん、第二王子を部屋に運びます」
「それなら今、第二王子専属執事を呼んでいますのでもう来るかと」
「そうか……」
王族のことを、誰かれ簡単に触れることは許されない。だからこの場所でずっと治療されたんだと、今更ながらサミュエルは理解した。
なんともいえない表情をしたサミュエルを、アルビダは心配そうに後ろから見ている。声をかけたいのだが、いい言葉が見つからず口をつぐんだまま。
数分もすると執事たちが第二王子を抱きかかえ運んで行った。
その後をサミュエルもついて行くのだが、アルビダの所に歩いて来て手を握った。
「アルビダ嬢も一緒に来てくれないかい?」
「……サミュエル様」
アルビダの手を握るその手は、少し震えていた。
〝僕の発作のことを一番心配し、助けてくれたのに……どうしてなんだデービット!〟
サミュエルの悲痛な心の声がアルビダに流れ込んでくる。
「もちろんご一緒しますわ」
アルビダは司書であるサイフォンに、『第三王子と一緒にいると伝えてください』と言付けると、サミュエルと一緒に後をついて行った。
★★★
ベットに横たわる第二王子は今もずっと苦しそう。治癒師たちはなすすべもなく、新たな治癒師を呼びにいった。
第二王子をまとう黒い瘴気はどんどん大きくなるばかり、それは天蓋付きのベッドを覆い尽くしていく。
執事たちに、『この発作のことは僕が一番分かっている』と、サミュエルが第二王子のことは自分が見ているからと、人払いした。
部屋から全ての人がいなくなった後。
サミュエルとアルビダは、第二王子が寝ているベッドに近寄る。
二人の気配に気付いた、第二王子デービットが顔を向ける。
「サミュエル……君は毎日こんな苦しみを……幼い時から……ぐっ」
デービットは苦しそうに眉を顰めながらも、一生懸命に話す。
そんな姿を見たサミュエルは泣きそうな顔になりながら
「じゃあ、どうして僕に呪いをかけたんだ!」
サミュエルは声を震わせながらも気持ちを訴えた。
その言葉を聞いたデービットは、何を言ってるんだと言わんばかりに不思議そうにサミュエルを見る。
「……呪い? なんの……事……だ?」
その言葉と表情を見たサミュエルは、何かに気付いた。
それは産まれ時から一緒にいる双子だから分かること。
…………その答えは。
デービットが嘘をついていないと言うこと。
これが何を表すか。
デービットがサミュエルに対して、呪いをかけていないと言うこと。
「アルビダ嬢、お願いだ! いますぐ神水を作ってくれないか」
サミュエルはアルビダに向かって叫んだ。
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