第42話 神水の効果
「早くこのお水を飲んで下さい!」
アルビダはサミュエルと同じように座り込むと、口元にグラスを持っていく。
「……み、みず? ありがとう」
サミュエルは、なぜそんなにも必死に水を飲ませようとするのかと思ったが、アルビダの心配している顔を見て、自分のために必死なんだと理解し、受け取り水を飲んだ。
ゴクリと水を飲んだ瞬間、サミュエルの体が光り輝く。
「え?」
さらに体から真っ黒な靄のようなものが溢れ出てきた。
「なっ!?」
サミュエルは自分に何が起こっているのか理解できず、口をぽかんと開け固まったままだ。
アルビダはサミュエルの体から溢れている黒い靄を鑑定して見ると。
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【呪いの瘴気】
呪った相手へと戻る
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———やはり呪い……呪った相手へと戻る? って事はサミュエル様を呪った人が分かるのでは!?
数分もすると、サミュエルの体をおおっていた黒い瘴気が消失した。
「……これは一体? 発作が始まると三十分は動けないというのに……!?」
サミュエルは自分の体に何が起こったのか理解できず、キョロキョロと周りを見回す。
そんなサミュエルの手を取り、アルビダは瞳を潤ませて言った。
「サミュエル様の発作は治りました!」
「え? 治った!?」
アルビダの言っている意味が理解できず、サミュエルは瞳を見開く。
そんなサミュエルの目をしっかりと見つめて、一番伝えたい事を言った。
「よく聞いてください! これは発作ではなく呪いなのです」
「のろっ!? 呪い!?」
急に呪いだと言われ驚くサミュエルだったが、先ほどの黒く気持ちの悪い靄、それに光り輝いた自分の体……普通でないことがわかる。それらが脳内で呪いだと合致してくる。
「アルビダ嬢……君は一体?」
「わたくしはサミュエル様の発作が呪いであると気が付きました」
アルビダの言葉にハッとするサミュエル。
「もしかして僕に会いたかった理由っていうのは、この呪いを解く事だったのかい?」
「はい! もちろんそうですわ。治って……本当に良かった」
呪いが完治し、張り詰めていた緊張が解けホッとしたのだろう。
アルビダの瞳にずっと溜まっていた涙の雫が、ポタポタと頬をつたい流れ落ちていく。
「色々……聞きたいことは山ほどあるけれど、アルビダ嬢ありがとう」
アルビダの瞳から流れ落ちてやまない涙を、サミュエルは優しく指で拭った。自分だって涙を流しているのに、気が付いてない様子。
———サミュエル様だって泣いているのに、わたくしの事ばかりに気を遣って……
そんなサミュエルの涙を、今度はアルビダが拭ってあげた。
お互いの涙を拭いあう行為が、何だかおかしくなってきたのだろう。
二人は目を見合わせて泣き笑う。
それも落ち着くと、サミュエルは立ち上がり、アルビダに向かって手を差し出した。
「ふふ、床に座りっぱなしは少しはしたないね。ソファーに移ろうか」
アルビダは差し出された手を取り立ち上がる。
「はい、そうですね」
ソファーに座るとサミュエルが淹れてくれたお茶を飲む。
「ではちゃんと話してくれるかい?」
サミュエルはお茶をゴクリと喉をならせて飲みほすと、アルビダを真剣に見つめる。
それに応えるようにアルビダは大きく深呼吸した後、話し出した。
「今から言う事は絶対に秘密にしてください。わたくしは先天的に鑑定のスキルが生まれた時から使えまして、わたくしの鑑定は普通と違い人まで鑑定できてしまいます」
「え? 人まで鑑定できるなんて聞いたことがない! ……もしかして先天的に授かると変化するのだろうか?」
そんな鑑定スキルがあるのかと、独り言を言いつつ感心しアルビダの話を真剣に聞いている。
「それで、この前お会いした時にサミュエル様が呪われていると知り……どうにか解呪できないかと調べていました」
「それで、今日会いにきてくれたという訳か」
「はい。解呪するには神水か、サミュエル様を呪った魔道具を壊すことだったのですが……」
———どうしましょう、水魔法の説明を考えてなかったですわ。ええと………ええと……。
「……だったのですが?」
言葉を復唱し、首を傾げるサミュエル。アルビダが次に何を発言するのか待っているのだろう。
———そうだ! わたくしのスキル称号の儀は終わりましたので、そこで授かったことにしたらいいいのでは? 一つではなく幾つも授かる方もいますから。
「スキル称号の儀で授かった水魔法のスキルがなぜか特別なお水、神水が出せると分かり……」
「水魔法で出した水が神水!? そんな話は聞いたことがないよ。でも……あの効果だ、認めざるを得ないよね。ちなみにもう一度このグラスに神水を出してくれないかい?」
サミュエルはアルビダにグラスを差し出した。
アルビダは言われるがままグラスに水を注ぐ。
「これは……改めて見たら、輝いているね。普通の水じゃないことがわかるくらいに」
アルビダから渡されたグラスを覗き込む。
初めて神水を渡された時、サミュエルは発作で苦しんでいたから、水を見る余裕なんてなかったのだ。
「飲んでみてもいい?」
「はい」
サミュエルは再びアルビダが作り出した水を飲んだ。
「!!……これは! なんて美味しんだ。それに体に力が漲ってくるよ! これが神水の力か……すごい」
「サミュエル様、このことは内密にしてほしいのです。そして重大なことがもう一つありまして」
「もちろん誰にも言わない。……重大なこと?」
「はい。実はこの呪いは解呪されると、呪いをかけた人に返されます。だから今は、呪いをかけた人がサミュエル様のように、苦しむことになると思います」
「ってことは……急に同じような症状の者がいたら、僕に呪いをかけた奴が分かるかも知れないってことか!」
「はい! そうなのです」
アルビダがそう言うと、サミュエルは瞳を輝かせ、再び頭を下げた。
「アルビダ嬢……本当にありがとう。君のおかげで長年の苦しみから解放されたよ」
「頭を上げてください、わたくし当然のことをしたまでですわ。それに、これまで愚痴を吐くこともなく呪いと戦っていたサミュエル様の方がすごいです」
「……アルビダ嬢……そんなこと言われたら君のこと……」
「え? なんて?」
アルビダはサミュエルの言葉が聞き取れず聞き返すも、サミュエルは口に手を置き黙り込んでしまった。
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