第41話 サミュエル様! 治しますわ。
アルビダと父は昨日の約束通り、王宮にある図書室に来ていた。
図書室はアルビダの想像以上の大きさで、小さく感嘆の声を漏らしながらキョロキョロと見ている。
そんなアルビダの姿を父は微笑ましく見ていた。
「では私は仕事に行ってくる。図書室での分からないことの相談は、この司書にするといい」
「こんにちはアルビダ様、司書をしております、サイフォンと申します。何なりと申し付けくださいね」
父の横に立ち、ニコリと微笑み挨拶する青年。
その姿は片方にだけ眼鏡をかけ、肩まであるオレンジ色の髪を後ろで一つに縛っている。まだ若く見えるのに、この図書室を任せられている男性らしい。
———どうしましょう。この方が側にいれば、図書室を出て行くことが無理ですわ。
父が去ると、サイフォンはアルビダを連れ図書室を案内していく。
「一階で本を選び、二階にあるソファーや机を使って勉強できます。さらに三階に置いてある本は重要な本ばかりとなっていますので、司書が同伴しないと入れません」
「はい。分かりました」
「ではどこから見られますか?」
どうやらサイフォンはずっとアルビダのそばにいて図書室を案内してくれそうな様子。
これは困ったぞと、どうやってサミュエルがいるであろう庭園に行こうかと、アルビダが悩み考えていた時。
後ろから声をかけられた。
「アルビダ嬢! こんにちは」
「え? あっ!」
後ろを振り返ると、アルビダが会いたい人が立っていた。
「サミュエル様!」
———会いたかった人に会えました! 女神ニュクス様ありがとうございます。
アルビダは心の中で偶然の出会いに感謝する。
「サミュエル殿下こんにちは、図書室にいらしてたんですね」
サイフォンがサミュエルに挨拶を交わす。その様子は仲が良さそうに見える。
「ここは僕の庭みたいなもんだしね。アルビダ嬢の案内役は任せてよ」
「私のような年配の者より、同世代の方に案内された方が楽しいですね。では殿下にお任せします。何かありましたら私をお呼びくださいね」
サイフォンは会釈をすると、その場を去った。
「実はね、アルビダ嬢が図書室に入って行くのが見えたんだ。ここは僕にとって庭のようなもんだし、なんでも聞いてね」
サミュエルは悪戯に笑う。その姿は元気そのもので、呪いがなければずっとこの笑顔が続くのになと、アルビダは心の底から思った。
「そうだったのですね! ちょうど良かったです、実はわたくしサミュエル様に会いに来たのです」
「えっ……僕に?」
サミュエルは「何かな?」っと顎に手をあて首を傾げる。
「あの……誰もいない場所に行ってお話がしたいのです」
アルビダの真剣な表情に、サミュエルは何かを感じ取ったようだ。
「誰も? う〜ん、じゃあ。この図書室の三階に、僕だけ使える部屋があるんだ。そこで話をしよう」
「三階は司書さんがいないと行けないとさっき聞きました」
「ふふ、僕だけは大丈夫なんだ。さっ、ついて来て」
———特別なお部屋があるなんて、さすが第三王子様ですね。
サミュエルは鼻歌を歌いながら、皆が使っている階段ではない別の道を歩いて行く。アルビダは階段と真逆の方に歩いていくサミュエルの少し後を、不思議そうについて行った。
五分ほど歩くと、小さな扉の前に立つ。
「この扉の奥は王族しか通れないルートなんだ」
「わたくしが通って大丈夫なんでしょうか?」
「僕が一緒だから大丈夫。さっ、行こうか」
サミュエルは胸のポケットから鍵を取り出すと、それを扉に差し込み右に回した。
カチャリと音がしたと思ったら、扉が自然に開く。アルビダは終始驚きながら見ていた。
「この扉は魔道具で出来てるんだ。この鍵がないと開かない」
「すごいですね」
二人が中に入ると、扉は自然に閉まった。長い階段を上がって行くと、再び扉があった。
「ここが僕の特別な部屋。さっ、どうぞ入って」
サミュエルが扉を開けアルビダをエスコートする。
中に入ると、そこまで広くはないが高そうな調度品に大きな本棚が置いてあり、本がたくさん並べられていた。これだけ見てもサミュエルが本好きなのが分かる。
「ソファーに座ってくつろいでいてね。新しく手に入った茶葉でお茶を淹れるね」
「ありがとうございます」
部屋の中でお茶などを飲食できるよう、小さな台所まで設置されていた。
サミュエルが台所に向かって歩いていた時。
「アグッ……!」
胸を押さえて座り込んだ。
「サミュエル様!」
「はっ、はぁ……タイミングがっ、悪いね……発作だ」
アルビダは慌ててサミュエルのところに走って行く。
サミュエルは、息をするのでさえ苦しそうにしている。そんな姿をアルビダは泣きそうになりながらも大きく深呼吸し、自分を鼓舞した。
———私のお水を飲んで頂くチャンスですわ! サミュエル様。絶対に救いますからね。
アルビダは強く決心し、台所からグラスを取るとそこに水魔法で出した神水を入れた。
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