第29話 パーティー前夜


 ——妖精さんたちの予言通り、わたくしのスキルは【感情変化】というスキルを授かりました。このスキルを進化させないようにしないと。


『アビィ? 大丈夫?』

 

 ロビンがアルビダの顔を心配げに覗き込む。


 アルビダはスキル称号の儀を終え邸に帰ってきた後、ずっと部屋で黙り込んでいた。

 初めは色々と考え込むこともあるのだろうと、ロビンは黙って見ていたが、あまりにも長く沈黙が続くので、ロビンは耐えられなかったようだ。


「ロビン、大丈夫ですわ。心配かけてすみません」

『どうしたの? ずっと笑ってないよ?』


 ロビンがアルビダの頬を両手でぽにっと挟む。


「……その……妖精さんたちの予言があたりましたので、少し不安になってしまって……」


『ああ……確かにね。もしかして将来誰かに魅了を使ってしまうかも? とか考えてる?』


「……はい」


 アルビダはロビンに考えている事をあてられ静かに頷く。

 そんなアルビダの姿を見たロビンはやれやれと、両手を上げたあと頭をポニポニと軽く叩く。


『その気持ちは分かるけど、僕はそこまで気にしないで良いと思うな』

「え? でも……」

『それってさ? 今のアビィが誰かを操ろうとしようと思うの?』

「そんなことしません!」

『だよね? じゃあさ? 悩む事ないじゃん』

「あ……」


 アルビダはロビンに的確な答えを告げられ目を見開く。


「そうですわよね! わたくし次第ですわ」


 ——ロビンのいう通りですわ! わたくし次第ですのに! どうして絶対使うと思っていたのでしょう。わたくしはそんな事しません!


 アルビダの瞳にいつものように輝きが戻る。


『そうそう、アビィは元気でなくっちゃね』

「ロビン、ありがとうございます」

『じゃ、妖精たちも待っているから今日の報告配信をしないと』

「はい」


 ロビンはいつもの如く、時計を光らせ光の掲示板を登場させる。

 画面が現れると、アルビダは挨拶のカーカーテシーを画面に向かって披露するのだった。


〝アビィ様こんちゃースパチャ〟

〝今日も眼福でありもうスパチャ〟

〝推しでスパチャ〟


 配信が始まると、妖精たちのスパチャ合戦が始まる。恒例行事のように

我先にと、アルビダにスパチャを送るのだった。


「今日は妖精さんたちに報告がありまして。スキル称号の儀に行ってきました。そこで、妖精さんたちの予言通りわたくしは【感情変化】のスキルを女神ニュクス様から授かりました」


 アルビダがそう妖精たちに報告すると、また画面が文字で溢れかえる。


〝やはり、スキル【感情変化】を〟

〝我らの助言で、未来が変化していると思っていたでありもうすが……基本は変わらないでありもうすね〟

〝基本は変わらないが、他は変えれるのなら良いんとちゃう?〟

〝アビイ様、お疲れ様。今日はゆっくり休んでね〟

〝二日後は第二王子が参加するパーティーでしょ?〟

〝今のアルビダ様なら、そのパーティも絶対に大丈夫〟

〝スキルさえ使わなければ大丈夫だから!〟


 妖精たちがアルビダを鼓舞する。

 それに応えるようにアルビダも「パーティー頑張りますわ」と応えるのだった。


 妖精たちの内心はパーティーのことが心配でいてもたってもいられないのが現状だが、そんな態度を取るとアルビダが不安になるのでいっさいそんな気配を見せずに配信を終えたのだった。

 もちろんこの日の掲示板がアビィ様のパーティーが心配だと、大荒れに荒れたのはいうまでもない。


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