第28話 スキル称号の儀


アルビダの新しいスキル【植物】の騒動から数日後。


この日アルビダは、教会に父と一緒に来ていた。

十歳となったので、スキル称号の儀で新たなスキルを女神様から授かりに来たのだ。


司祭様を待っている間、教会内にある椅子に座っているのだが、アルビダはソワソワと落ち着かない。

心を落ち着かせるため、一緒に連れてきたロビンを抱きしめ、ふわふわのお腹に顔を埋める。


——これで本当に、妖精さんが言っていた【感情変化】のスキルを授かることになったら……わたくしが【魅了】という力で誰かを操ってしまうかもしれないのが怖い。


アルビダは最悪のことを想像し……震えていた。その様子を横に座っていた父が見逃すはずもなく。

緊張しながらも、アルビダの頭にポンッと手をのせぎこちなく撫でると、ポケットから何かを取り出し、アルビダの手にのせた。


「これは……飴」

「公爵令嬢がそんな態度でどうする、それでも舐めて心を落ち着け毅然とした態度でいなさい」


〝初めての事だ、アビィが緊張するのも無理はない。この飴でちょっとでも落ち着いてくれたらいいのだが……アビィたんが手作りしてくれた飴を、嬉しくて肌身離さず持っていて良かった〟


「ゲフッ」


 ——お父様まだ飴を持っていたのですね。この前料理長に教えてもらいながら、薔薇の蜜を使ってわたくしが作った飴。何だか嬉しいです。


 飴の素となった薔薇の蜜だが、それは植物スキルを使い採取したもの。

 どうやって入手したのだと大騒ぎとなったのだが。

 その説明を、アルビダは父に鑑定スキルを使い採取方法を調べたと伝えた。

 また新たにスキルを得たなんて知れば大騒ぎになるから、ロビンと言い訳を考えていたのだ。

 

 その後。まるで薔薇そのものの蜜を採取出来る事は、イングリットバークマン邸だけの極秘案件として扱われる事となった。


 そしてその採取方法は鑑定スキルを使わないと、採取できないという事にしてあるので、アルビダだけが薔薇の蜜をみんながいない時に採取する事を父と約束したのだった。


「飴を舐めたら落ち着きました。お父様ありがとうございます」

「なら姿勢を正していなさい」


〝ふぅ〜。アビィたんに笑顔が戻って良かった、あんな顔かわいそうで見てられない。邸に連れて帰ろうかと思ったくらいだ〟


 ——お父様心配かけてすみません。わたくし決心しました! もう大丈夫ですわ。


 アルビダが姿勢を正し、待っていると名前が呼ばれた。


「では中に入ろう」

「はい!」


 案内された部屋に入ると、目の前に三メートル以上ある大きな女神像の姿が目に入る。この世界を守ってくれている女神ニュクス様の銅像。


 アルビダが女神像に目を奪われていると、司祭から「女神ニュクス様の前で跪き祈りなさい」と促される。


 アルビダは言われた通りに跪き祈った。


 ——女神ニュクス様、アルビダ・イングリットバークマンです。わたくしにスキルを授けてくださいませ。


 目を閉じているアルビダの体が光り輝く、光が落ち着くと……。


「あっ……!」

 

 目を開けたアルビダの前に、光り輝く女神ニュクスが立っていて優しく頭を撫でた。

 次の瞬間、光が拡散して女神ニュクスの姿は消失した。

 ニュクス様の代わりに、今度はアルビダの頭上に〝感情変化〟という文字が光で作られた、だがそれも数分もすると消えた。


「ほう……アルビダ様に授けられたスキルは【感情変化】ですね」


 そう司祭がアルビダに告げた。


「やっぱり……当たっていた」


 妖精たちが話していた通りのスキルで、アルビダは思わず呟いた。


「ん? なんていった?」


 そんなアルビダを不思議そう父は見ている。そんな二人をよそに、司祭は興奮気味に二人に話しかける。


「この【感情変化】というスキルはかなりレアです! 戦いに行く騎士たちの感情を高め鼓舞したり、悲しみを和らげてあげたり、悩める人の感情をいい方向に持っていってあげたりと……ぜひ将来、わが教会で働いて欲しいくらいです」


 司祭様にそう言われ父は眉を顰める。


「たまに手伝いに行くのは良いが、働きに行くのはダメだ。イングリットバークマン家の跡取りであるからな」


 〝可愛いアビィたんを働きに出すなんて心配で眠れんだろうが! この司祭何を言いだすんだ! まぁ、勉強のために手伝うくらいなら良いが……騎士の所に行って鼓舞するなどはもっての外だな〟


 考え事をしている父の迫力に、司祭が怯えている。

 考えている内容は表情とは全く違うのだが。


「あっ……しっ、失礼しました。お手伝いでも良いのでぜひ依頼てくださいね」

「うむ。考えておこう。では帰るぞアルビダ」

「はい!」

 


父はアルビダの手を引きスキル称号の儀の部屋をでた。


 そんな二人の姿を司祭は「ふぅ〜赤の公爵様は迫力満点ですね」っと思いながら額の汗を拭うのだった。




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