第3話 夢じゃない!?

「……んん」


 柔らかな朝日がアルビダの頬を照らし、目を覚ました。

 夢のような昨日のことを思い出しながら上体を起こすと。


『おはよ〜アビィ』


 アルビダに、クマのロビンが首をコテンと傾げあざとく話しかける。


「……ロビンおはよ」


 ……ロビンが動いてる。やっぱ昨日のことは夢じゃないんだ。


 アルビダは驚きながらもロビンをギュッと抱きしめた。


『さぁ、今日も配信頑張ろうね。新たなスキル欲しいでしょ?』

「はいしん……? う、うん。あのねロビン」

『なぁに? アビィ』

「昨日、色々とわたくしに教えてくれた方達は一体なんですの?」

『何って言われてもなぁ? 説明が難しいね。アビィの事を好きな……なんて言ったらいいのかな? そうだね、姿も見えないし、妖精とでも思ってたら良いかな?』


 ———わたくしを……好きな妖精!? あの四角い画面で、妖精さんと会話ができるって事なのでしょうか?


「妖精さんたちが……わたくしを……そのう、好きで助けてくれていますの!?」


 アルビダの頬が嬉しくて桃色に染まる。


『ふふ、アビィ嬉しいんだね。顔が真っ赤だよ……!! あっ』

「え? ロビン?」


 ロビンが動かなくなっていまいましたわ。


 アルビダが急に動かなくなったロビンを不思議そうに見ていると、扉がノックされメイド長のメアリーが部屋に入ってきた。


「おはようございます。アルビダ様、朝食の用意ができました」


〝ハァァ♡ 寝起きのアルビダ様可愛い、ぴょんと跳ねている寝癖まで最高です。私が美しくしてあげますね〟


「アルビダ様、ではお召し物を着替えて準備をしましょうか」

「ふぇぇ!? わっ、わかりました」


 言っている事とわたくしに聞こえる声があまりにも違いすぎて……脳がこんがらがります。

 これは本当にメアリーの考えてる事なのかしら? 


 アルビダは動揺しながらもメアリーに服を着替えさせてもらい髪を整え、朝食に向かう。

 すると先に来て待っていた父マティアスと目が合う。


「おはようございます。お父様」

「おはよう。席につきなさい」


〝今日のアビィも可愛い。昨日の今日だから憔悴しきってないだろうか。よく見るとアビィたんの目の下がまだ赤い。早く元気になっておくれ〟

 

「はわっ!?」


 お父様、朝から何を言っていますの!? 本当にそんな事を考えて!?


「急に声を出してどうしたんだ。早く着席しなさい」

「……はい」


〝アビィたんの可愛い頬が桃色に染まっている。どうしたんだ? 可愛すぎて困るではないか。それに今日はやけに目が合う。そんなキラキラした目で見られては目が溶けそう〟


「……!!」


 また! 

 アビィなんて……愛称で呼んでくれた事など一度もないのに。


 再び想像もつかない父の心の声が聞こえてきて、変な声を出しそうになるのを我慢しながらアルビダは席についた。


 いつもと少し違うアルビダの様子を見て、父マティアスは心配げにアルビダを見る。


「体調がまだすぐれないのか?」

「いえ。大丈夫ですわ」

「そうか。だが、今日は勉強はしなくて良いので、ゆっくりしなさい」


〝まだ妻が亡くなり心が疲弊しているはずだ。私だって大切な妻を亡くし今日は仕事などしたくない。だが領民たちの幸せを守るのも領主の勤め〟


「ありがとうございます。その……さすがお父様ですわ。領民の事を常に考えていますのね」

「へっ!? そっ、そうだな」


〝あれっ!? 私は領民の事を口に出していたのか〟


 父マティアスは口を押さえ黙り込む。そんな父の耳が少し赤くなっているのをアルビダは気付いた。


「ふふっ」


 アルビダは父の優しさが伝わりはじめて自然に笑みが溢れる。


〝ふぁっ!? アビィが私に向かって笑いかけた!? これは忘れてはいけないアビィの記憶が増えたぞ! 可愛すぎて寿命が縮むところだった〟


 いつも食事の間は、二人は会話することはないのだが、今日は父の心の声が絶え間なく聞こえてくるので、アルビダにとって幸せな時間となった。


「そうだ、アルビダよ。一週間後にリンドール公爵家でお茶会があるんだが、それに参加しなさい」

「え? お茶会ですか? 今まで一度も参加した事ないのですが、なぜ急に!?」

「アルビダも十歳になった事だし、そろそろ同じ年頃の子供達と接することも経験しておくのもいいだろう」


〝本当は可愛いアビィを誰にもを見せたくない。お茶会などに行って欲しくないのが本音だが、今のアビィに必要なのは大切な友達だろう。お茶会で見つかるといいのだが〟


「わかりました」

「ではお茶会の作法などは、家庭教師のライラに聞きなさい」

「はい」



 ★★★



『アビィおかえり〜』


 アルビダが部屋に戻ると、クマのロビンが走って来た。


『あれ? アビィ何だかお顔が赤いよ? どうしたの?』

「そっ、それが心のスキルの効果で……お父様の心が話している事と真逆で、そのう……」

 

 アルビダは頬を薔薇色に染め俯いてしまう。

 その様子を見て、なんとなく察したクマのロビンはニヤリと口角を上げる。


『ふぅ〜ん。なるほどね。父上の心の声はそんな顔になるくらい嬉しかったんだね。よかったねアビィ』

「そっ……それは、そのううう……」


 ロビンたらっ、ニマニマしてわたくしを見て、ああっもうだめ。

 何だか恥ずかしくて死にそうですわ。


 アルビダは恥ずかしさのあまり、ロビンから逃げるようにベッドに飛び込んだ。

 その後をトコトコと追いかけ、わざと顔を覗き込むロビン。


「むぅ、ロビンの意地悪」

『楽しい食事の時間になってよかったね』

「ええ、それはそうなのですが。一週間後にリンドール公爵家で行われるお茶会に行く事なったの」

『今までお茶会なんて行ったことなかったのにね』

「そうなんですわ。でも、お父様はわたくしにお友達を作って欲しいみたいなの

 」

『心の声で聞いたんだね。それでその期待にそえるように頑張りたいって感じかな?』


 その通りと言わんばかりに、アルビタは頭を上下に動かす。


「だけど……わたくしに、お友達を作る事ができるのか不安で……」

『う〜ん、それならさ? 妖精たちに聞いてみたら? なにか良いアイデアを教えてくれるかもね』

「妖精さんに……」


 妖精さんに聞いて……友達できるの!? それならぜひ教えていただきたいのですが……


『ふふふ。そうと決まれば朝の配信をしようか』

「はいしん……妖精さんたちとお話しするのですね」

『うん。じゃあ始めるよー』


 ロビンの首からぶら下がっている懐中時計が光り、掲示板が現れた。

 すると四角い画面にアビィの顔が映し出される。


〝フォ!?〟

〝アビィたんのご尊顔が再び!〟

〝尊い!! 尊いですぞ〟

〝昨日のは夢じゃなかった〟

〝信じて待っててよかった!〟

〝語彙力失う〟


『ほら、ちゃんと挨拶しないと』

「あっ、妖精の皆様おはようございます」


 アルビダはふんわりと微笑むと、華麗にカーテシーを決める。


〝可愛いよぉ〟

〝妖精!?〟

〝妖精!〟

〝ようせい〟

〝今日も天使の笑顔〟

〝はい、妖精ですよ〟

〝これで1日頑張れる〟


 チャリン♪【500P】

 チャリン♪【1000P】

 チャリン♪【300P】

 チャリン♪【1500P】


 今日も金貨が画面で溢れかえる。



★★★



早くも★評価やお気に入りありがとうございます。嬉しくてもう1話更新しました( *´꒳`*)


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