第2話 スキル?

『アビィは人気者だね。みんながアビィの事を大好きなの、分かった?』

 

 ロビンの言葉に、アビィは無言でこくんっと頭を上下に動かす。


 それを見た視聴者からの、スパチャ効果音が鳴り止まないのは言うまでも無い。


『さてと、ポイントがいっぱい貯まったね。これを【スキル】に交換しないとだね』


 スキルとはアルビダの世界でいう。特殊な能力の事。

 スキルは人それぞれで、どのようなスキルを持てるのかは未知数。

 十歳になると行われる【スキル称号の儀】で自分がなんのスキルを持つが決まる。それは女神様からの祝福ギフトで幾つかのスキルを授けられる。もちろん殆どの人が一つのスキルしか授けられない。

 その時に自分がどんなスキルを授けられるのかが命運を分ける。

 

 そう。スキルが増えるなど、この世界ではあり得ないのだ。


 ———スキルを交換?


 だからこそアルビダは、ロビンの言っていることが理解できずに困惑する。


「こうかん?」

『ふふ。これは説明が必要かな? 今日の配信はここまでだね』


 ロビンがそう言うと、四角い画面が消えた。


「あっ……消え?」

『今日の配信はもうおしまい。さてと、ポイントの説明をするね?』


 ———ポイントの説明?


 ロビンの言っている意味が分からず、アルビダの表情は唖然としている。


『アビィの事が大好きで、応援してくれている人から貰えるスパチャポイントはね。特別な力があってね? そのポイントを使って、新たなスキルを貰えるようになるんだよ。言ってる意味わかる? アビィが欲しがっていた、癒しのスキルとの交換だって後々あるかもしれないって事』

 

 え? ロビン何を言ってますの? 

 そんな夢見たいな話があるの?

 でも……そもそも、今の状況が夢みたいなわけですし……。


『ってことで? 何のスキルと交換する? う〜ん、そうだね? 今交換できるスキルは鑑定と心のスキルだね』


 ———鑑定スキル!? 


 それってかなりレアスキル! どんなわからない事も、鑑定スキルを使うと分かってしまう最高のスキル!

 それをわたくしが頂けるの!? 本当に!?

 心のスキルはよく分からないから、これは鑑定スキル一択ですわね。


『決まったみたいだね? じゃあこの画面から欲しいスキルにタッチして』


 ロビンが再び四角い画面を映し出す。

 画面に映し出されているのは。


——————————————————————

【ポイント交換】


 今のポイントで交換できるスキルはこの二つです。

 ▶︎鑑定

 ▶︎心

——————————————————————


 これをタッチしたら良いんですのね。よし。

 鑑定を……たっ!? ふぇ!?

 タッチしようとしたら何かに躓き、転んでしまった。


「いたた……」


『ふうん。なるほどね。アビィは心のスキルを選んだんだね』


 ロビンが短い腕を組みながら『ほうっ…… 』っと唸っているけれど。

 ちょっ、まっ!? こ・こ・ろ!?

 わたくしは鑑定を選んだつもりですのに! こころ?

 躓いたついでに心を押していたみたい。

 

「心って一体どんなスキルですの!?」


『それはね〜……。おっと、これは僕が説明するまでもないみたい』


 ロビンはそう言うと。

 ペタンッと座り込み、クマのぬいぐるみに戻ると、何も話さなくなった。


「ちょっロビン!? 急にどうしたの!?」


 座り込むロビンを抱き上げると同時に、ドアがコンコンっとノックされる。


「え?」


 すると扉がガチャリと開き、父親のマティアス・イングリットバークマンが眉間に皺を寄せながら入ってきた。


 いつもこんな時間に、お部屋に入って来た事など一回もないのに。

 一体どうしたの?


 アルビダは困惑し、ロビンをギュッと抱きしめ固まってしまう。


「アルビダ、まだ起きていたのか」


 そう言いながら、眉を顰めて父がアルビダを見つめる。

 その形相は威嚇されているように思い、アルビダは怖くて目を伏せる。


〝あああっ可愛いアビィたん。こんなにも憔悴してしまって。可愛そうに。目も涙で腫らして真っ赤じゃないか! 悲しかったんだよね。それは私も同じ気持ちだよ。最愛の人がこの世からいなくなってしまったのだから。これからは私がアビィたんの事を絶対に守るからね。安心しておくれ、私の至極の宝アビィたん〟


 お父様の声で、脳内に声が聞こえてくる。

 この声は一体!?

 どう考えても、今のお父様からは想像がつかない。

 だって……お父様を見ると、眉を顰め怖い顔をしている。


 この声は……何!?


 いつもなら怖くて絶対にできないが、聞こえてくる声が気になり、父の事をじっと見つめるアルビダ。


〝はうぁ! アビィたんの可愛い瞳が私を見ている。可愛すぎて耐えられない。こんなの直視できるわけない。どうしよう頭を撫でても良いかな? でも嫌われたら……〟


 え? 頭を撫でる? って言った?

 お父様がわたくしの頭を!?


 父の手がアルビダの頭上に近づくと、思わず体がビクッと強張ってしまう。

 すると手が止まり、父は踵を翻しアルビダに背を向けた。


〝危ない危ない……アビィたんを怖がらせる所だった。早く元気になっておくれ愛しいアビィ〟


「もう遅い。ベットに入って寝るんだ」


 そう言って父は部屋を出て行った。


 これは一体何だというの?

 意味が分からず放心していると、抱き抱えていたロビンの手が動き出す。

 

『ふふふ。アビィ? 聞こえた? これが心のスキルだよ』

「ロビン!」


 心のスキル? 

 これが? 

 ロビンはなにを言ってるの?


『アビィのお父さんの声が脳内に聞こえたでしょ?』

「う……うん」


 だけど、その声はいつものお父様と余りにもかけ離れていて。


『あれがアビィのお父さんの本心なんだよ。君のことが大好きみたいだね。ふふっ』


 クマの姿だと言うのに、ニヤリと含み笑いをしている様に見えるロビン。


「そんなわけないわ! だっていつも眉間に皺を寄せてわたくしを睨んで……」

『だから、口下手なんじゃない? 本当はさっき聞こえた心の声みたいな事を言いたんだと思うよ?』

「…………あっ」


 ロビンに言われハッとするアルビダ。

 思わず抱いていたロビンを手から落としてしまうが、「急に落とさないでよね」っと文句を言いながらも、ロビンはひらりと舞い器用に着地する


「じゃ……じゃあ、お父様はわたくしの事が……好き?」

『そうだよ! それ以外何があるっての? さっきだって頭を撫でたそうだったじゃん』


 そんな……そんな……お父様がわたくしを……。




 —————好き。




 そう心の中で思うと、嬉しくて胸が締め付けられる。

 アルビダは両手で顔をおさえ座り込んでしまった。


 そんな中再び扉がノックされ開けられる。


「失礼致します。まだ就寝されていないとの事」


 メイド長のメアリーが入ってきた。

 目も合わせず言葉を発する。


「あ……。はい、もう寝ますわ」


 アルビダはメイドに微笑み、ロビンを抱き抱えベットに入った。


 〝ああっアルビダお嬢様の天使の笑顔……直視しちゃ目が蕩けちゃうのに、見てしまった! 今日は悲しそうだわ。癒してあげたい。早く元気になって下さいね〟


 メアリーは何も言わずアルビダに布団を被せた。


「では失礼致します」


 メアリーまで!? 嫌われていたと思っていたのに!

 これって本当に心の声なの!?

 わたくしの願望とか……が聞こえてるんじゃ。


 驚き身悶えていると、頬にぽみゅりとロビンの柔らかい手が触れる。


『アビィ? 願望が聞こえてるとか考えてない?』

「そそっ……」


 考えていた事をロビンに言い当てられ、思わず言葉に詰まってしまうアルビダ。


『みんなね、君の事が大好きみたいだね。良かったね勘違いに気づいて。ふふ』


 ロビンが左目を閉じて笑う。


「あううう……」


 アルビダは色々ともう限界なのだろう。真っ赤な顔を隠すように布団に顔を埋めると、いつの間にか眠りについていた。





———————————————————————————————————




【癒し】悪役令嬢アルビダ様を応援するスレ 01.



331:名無しのお嬢様

配信終わっちゃた……


336:名無しのお嬢様

アビィたんかわゆす。


337:名無しのお嬢様

あれってマジで異世界で配信してるみたいだった。


341:名無しのお嬢様

異世界と繋がってたりして。


342:名無しのお嬢様

>>341それな! まぁそんなけねーけど草


343:名無しのお嬢様

アビィたん癒し


344:名無しのお嬢様

【アルビダの毎日配信】お気に入り登録したけど。本当に毎日あるの?


352:名無しのお嬢様

>>344

そんな配信ないけど? クズのアルビダの配信チャンネルなんてどこにもねーぞ? お前ら頭大丈夫?


353:名無しのお嬢様

>>352

はい乙。アルビダ様のことクズとか、このスレ名ちゃんと見た?


358:名無しのお嬢様

これさ……まじで見れてる人と見れてない人がいるんだけど。どー言うこと!?


359:名無しのお嬢様

俺たち選ばれし民?


360:名無しのお嬢様

【アルビダの毎日配信】明日もあるのかにゃ。絶対に配信待機。


370:名無しのお嬢様

どーやら、アビィたんのアンチにはこの配信見えてないみたいやな。

どんな仕組みなんか分からんけど。応援するだけや。


336:名無しのお嬢様

一生アルビダ様推し



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裏の異世界日本で大騒ぎになっているなんて露知らず、アルビダはロビンを抱きしめスヤスヤと眠るのだった。



「アルビダ……僕はずっと君の味方だよ」


アルビダは夢の中で誰かが優しく話しかけてくれている気がした。



これは、悪役令嬢アルビダが配信によって未来を教えて貰い数々のフラグをへしおり、最後は幸せになる物語。




★★★あとがき★★★



アルビダ「みなさま、ここまで読んでいただきありがとうございます。あの……そのう……」

ロビン『アビィ? ちゃんとお願いしないと分からないよ?』

アルビダ「もし、わたくしを応援していただけるなら、お星様で推していただけますと……とても嬉しいのです! よろしく願いします。わたくし配信頑張りますわ」

ロビン『うんうん。これでまたアビィのファンが増えたね』

アルビダ「そんなっ……嬉しいです」

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