第1章 第4話

 ターゲットとターゲットのサークルメンバーは、電車の中で座っている。

 ターゲットはすでに半分寝ている状態で、後輩は先輩を心配そうに見守っている。

 そしてその状況を私は彼らのそばに立って吊り革につかまりながら、さりげなくチェックをしている。


 全てが今のところ順調と言えるだろう。とはいえ、暗殺において一番重要なことは焦らないことだ。ここから予定外のことが生じるかもしれないが、その時は勇気を持って撤退することも必要だ。

「先輩、そろそろ乗り換えの駅に着きますよ、起きてください。」


 ターゲットは後輩に起こされると唸ってなんとか起き上がった。

「この状態で一人で帰れますか。」

「らいじょうぶ。そろそろ酔いも覚めてきたし。」

 ターゲットはそう返すが、飲ませた幻覚剤の効力が切れるのには後3時間はかかるはずだ。


 一応、後輩は乗り換えの改札までは見送って、その後は帰ることにしたらしい。

 さあ、ここからが本番の仕事だ。

 ターゲットはいつも乗り換えの時に電車を待つ場所は決まっている。こう言う行動というのはほぼ無意識で行われるものであり、酔っていても幻覚状態にあっても変わることはない。

 酔っ払った人間は次の日は覚えていなくとも、ちゃんと自分の家にまで帰れることからもわかると思う。


 そして、ターゲットがいつも電車を待っている場所の付近は監視カメラに映らないことを確認している。

 ターゲットから10mほど離れていた場所に立っている私はふらふらのターゲットがいつもの乗り換えの定位置に着いたのを確認した。


 そして、周りを見渡す。いつも通り、ほとんど人はいない。ターゲットの一番近くにいるのは私だ。すなわち、ターゲットの半径10m以内には誰もいない。

「まもなく、2番線に電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側で、お待ちください。」

 ターゲットの乗り換えの電車のアナウンスがなっている、ここからおよそ15秒で電車は到達する。


 さて、後はイメージ通りにやるだけだ。

 私は、時間を数えながら歩き始めた。


 15,14,13,12,11,10,9,8,7

 周りを確認しながら。私はターゲットの真後ろを通り抜ける。


 6

 ターゲットの背中を押す。


 5

 ターゲットはそのまま線路の中に落ちる。このタイミングなら電車の運転手も電車はターゲットの手前で止められないし、私が突き落としたところを見ることもできない。


 4

 ターゲットは自分の身に何が起きたのか理解できず。幻覚剤のせいで素早い動きをすることもできない。


 3,2,1

 ターゲットは歩きながら確認したが線路の上でうずくまったままだ。この事態に気付いている人はホーム上で私だけ、おそらく電車の運転手も気づいているだろうがもう遅い。私はそのまま駅の出口に向かう。


 0

 ギュイーンというようななんとも形容しづらい音がし、ターゲットは電車に轢かれた。生死など、確認するまでもないだろう。

 ちょうど駅の出口に向かうエスカレータの途中で、大慌ての駅員とすれ違った。

 私のしたことで余計な手間をとらせてしまって申し訳ない。



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