なかよし村

青いひつじ

第1話


この村の人たちは、みな仲がいい。



"お人よし村"と呼ぶ人もいるほど、この村の人たちは困っている人を放って置けない。

誰かと出会えば必ず挨拶をし、いつもニコニコ微笑んでいる。


年長者を敬い、席を譲り、一緒に荷物を持つ。

思っていることは簡単に口にせず、胸の中に留めることができる。


幼い頃からそんな大人たちの姿を見ているためか、この村の人々には、礼儀、協調、温厚が染み付いている。



これは仕事にも反映されている。

レストラン、カフェ、コンビニ、スーパー、ホテル。

どこに行っても従業員たちはテキパキと働き、客の少し無理がある要望にも笑顔で対応する。


交通機関は1分でも到着が遅れようものなら、車内に謝罪の言葉が流れ、隣村の人たちはひどく驚いたという。


この村には"お客様は神様"という言葉があり、おもてなし力は最高レベルだと称される。



治安も良く、道にゴミ箱は無いが、なぜか村にはゴミひとつ落ちていない。

自然が美しく水もきれいで、蛇口からは天然水同様の水が流れる。


村の高齢化が進んだ今でも、住みたい村ランキングのトップ10に選ばれている。

全村幸福度ランキングでは、毎年20位圏内を保っている。

他の村に比べると平均寿命も8歳長く、この数字は数ある村の中で1番だと言う。



"いつか、なかよし村に住んでみたい"

みな口を揃えてそう言った。





みなが足並みを揃える、素晴らしいこの村の人々は、1人だけが目立ったり、得をすることを極端に嫌う。

自分の意見を貫こうとする者は、この村では生きていけない。



村の端にある製造会社の定時は18時だ。

しかし、18時になっても仕事を切り上げる者はいない。

みな、何かの作業に追われている。

自分の分が終われば、声をかけ合い、他の人を手伝うのがこの村の常識である。


ある日、1人の若者が18時になり退社した。

次の日から、上司に口をきいてもらえず、数日経ち、若者は退職したという。




誰かが"かわいい"と言えば、みな、"かわいい"と言った。

反対の発言をする者は"変わってる"と言われた。

新しいことをする者も"変わってる"と言われた。





ある夏のことだった。

急な大雨が村を襲い、その雨は止むことなく降り続いた。

排水溝に収まりきらない水がドバドバと溢れ出し、玄関まで浸水している。


村の人々は、船に乗って隣町へ避難しようとした。

しかし、船は限られた人しか持っていなかった。



「ここでボーっと突っ立っていては全員死んでしまうぞ!船を持っている者だけでも生き残るのだ」


誰かが叫んだ。

そしてまた、別の誰かが叫んだ。



「お前よくもそんな酷いことが言えるな。その船で1人逃げ出してみろ。この村が沈まずに助かったとしても、もうここにお前の居場所はないぞ」



船で逃げようとしていた男は、動きを止め振り返った。

集まった村の人々は、汚いものを見るように、男を見つめていた。



「、、、なんだよ。分かったよ」


男は船から手を離した。



「みんな大丈夫さ!きっと、そのうちに助けが来る!そうだ、あの公民館で、励まし合いながら待とうではないか!」



そう言った別の男は、鍛え上げられた上半身に、麻雀牌のように真っ白な歯を見せ、村人たちを鼓舞した。


村の人々は、その言葉に安心したようにお互いの顔を見つめ、微笑みながら、助けが来るのを待った。


しかし、待てど暮らせど助けは来なかった。

それでも、何の根拠もない言葉を信じ、動かず待っていた。



雨は降り続け、村の人々は、みな、なかよく沈んでいった。









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なかよし村 青いひつじ @zue23

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