Hello,new lover
夏休みに実家に帰省した恋人が、そのまま夏休みが終わっても帰ってこなかった。連絡はつかないし、警察に捜索を依頼してもなぜか断られ、大学に彼の実家の連絡先を教えてくれと頼んでも知らないと言う。合鍵を使って彼の家に入ると机の上には黒いノートが置かれていて、私は昔彼にこれを見てはいけないと言われていたのだが、少しでも手がかりが欲しいと思い見てしまった。ノートには数十ページにも渡って彼の個人情報や人生の記録がびっしりと書かれていて、恋人として私の名前も何度か登場していた。まるで一度記憶を失った人間に、これが自分だと教えるためのノートのよう。その一番最後のページに彼の実家の住所が書かれていたので、私はその場所に行ってみることにした。
電車とバスを乗り継いだあと山を越えた先に辿り着いた小さな村が、彼の故郷だった。最初に出会った村人に一緒に撮った写真を見せて彼を探しているのだというと、村人は驚いたように私の顔を見たあと、帰った方が良いと静かに言って去っていった。何人に聞いても皆同じ反応だったが、諦めずに村人を探し続けていると、彼によく似た少女に出会った。彼女は彼の写真を見て驚き、妹だと名乗った。そして私を森の中に案内してくれた。
これが兄ですと彼女が言ったものは、どう見てもただの木だった。まだ小さな、私の膝までしかない木。彼の妹が言うには、この村の人間は、亡くなり遺体を地面に埋められるとそこから木が生え、花が咲き、生まれ直すらしい。夏休みに帰省した彼は階段から落ちてうっかり亡くなり、今生まれ直している途中なのだと言う。よく見ると木の枝にはお揃いで買った指輪が通されていて、だから私はそれを信じた。
彼が帰ってきたのはその一年後だった。生まれ直した彼は外見は元通りだったが記憶をすっかり失っていて、しかしそれは初めてのことではないらしく、ノートを読むと記憶を取り戻したかのように元通りの生活を送り始めた。そういう風にできているらしい。
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