机の中は空

私の机の中に空が現れたのは突然だった。ある日、登校して机の中に手を入れると、中に入れていたはずの教科書やノートが全てなくなっていたのだ。驚いて机の中を覗き込むとそこには青空が広がっていて、私はしばらく目を瞬かせて目の前を流れていく雲を眺めた後、そうっと机の中から手を引いた。吸い込まれそうで怖かったのだ。教科書やノートを全て無くしたことを正直に話すと先生や両親からはとても怒られたが、机の中の空のことは誰にも言わなかった。新しく買ってもらった教科書やノートは全てカバンの中に入れて机の横に下げ、授業中に机の中に手を入れて風を感じて楽しんだりしていた。空はずっと凪いでいて、教室の外の空が嵐の日も雪の日も変わらず青いので、これは私だけの空なのかもしれないと思っていた。

クラスに転校生がやってきた。人間ではないのではないかと錯覚するほどに美しい少年。クラスの女子は色めき立ち、彼はあっという間に質問攻めにあった。これまた美しい声でそれに答えている彼を自分の席から眺めていると、どこからきたの、という質問に、彼は私の方を指した。同時にチャイムが鳴ったので授業が始まって質問攻めは終わり。女子たちは解散して、しかし私だけは変わらず彼が気になって眺めている。すると彼が机の上に広げたノートに既視感を感じた。

後でこっそり確認してみると、彼が持っている教科書とノート全てに私の名前が書いてあった。そこで私は、机の中の空は私だけのものではないと知って、少しがっかりしたのだった。

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