第47話
「何度でもチャレンジするのが俺なんだけど、君には少し臆病になってる。でも……」
なんだろう。少し躊躇っているけど、私が気を使わせてしまっているんだろうな。水越さんと話していたようなざっくばらんで、気さくな感じには出来ないんだろう。
「仕事終わりに食……いや、お茶をどうかと思って」
仕事終わりにお茶なんて、少しおかしい。食事を拒み続ける私に出した、苦肉の策なのだろう。私みたいな女に、部長の優しさは勿体ない。
「笑った? 今、笑ったね」
いけない、笑ったらあの凶器に満ちたジョーカーになる。最近の私は、感情の起伏が激しくなっている。笑うなんてなかったことなのに、気が緩んでいたみたいでなんてまぬけなの。
あのときの言葉が頭の中で蘇った。
ジョーカーみたい、ジョーカーみたい。怖い、怖い。
「あ……はっ……はっ」
言われた時の声が蘇り、過呼吸が私を襲う。また部長に迷惑がかかってしまうのだから、普通に息をしなさい、と言い聞かせても、呼吸は言うことを聞いてくれない。でも今ならまだ自分の足で歩いて行ける。私は急いで部長の傍を離れた。
「白石」
「……!」
部長に背中から抱きしめられた。
「大丈夫。俺がそばにいるから、何があってもいいから」
部長は私を振り向かせて、また抱きしめた。
「俺の言葉だけ、俺の言うことは信じてくれないかな。絶対に嘘は言わないから」
「はっ……はっ……」
「ゆっくりだ、ゆっくりと呼吸して。そうだ、上手だ、ゆっくりと深呼吸をしてごらん」
部長の言うとおりに呼吸をすると、少し楽になってきた。
「そうだ、いいよ」
背中をトントンと優しく叩かれて、それがとても心地いい。身体から力が抜けて行くのが分かる。まともじゃない私は、なにも満足に出来ない。こんな私にどうして部長は好きだと言ったのだろう。
「……すみません……」
何もかも、色々なことを含めてのすみませんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます