第30話

「唇が厚くてたらこみたい。たらこがたらこを食べてるみたいね」


給食を食べているときに突然そう言われた。


「どれどれ? 見てみたい」

「え~私も」


ある女子の一言がきっかけで、私を囲んで給食を食べ始めた。


「動物園のさあ、動物がエサを食べている所を観察してるみたい」

「やだ~ さすがに言い過ぎ」


それからというもの、給食の時間は私を囲んで食べるようになった。その人数は少しずつ増えていき、最終的には教室の真ん中に私を座らせ、給食を食べるようになった。

私は給食を食べることは出来なくなって、給食の時間は本を読んで何とか時間を過ごし、そのうち保健室で給食を食べるようになった。

医務室に行かなかったのは、嫌な思い出が蘇るからでもあった。

自分の唇が厚いなんて感じたことはなかったし、逆に少しふくらみがあって良いと思っていた。それが周りから見ると、分厚い唇だったようだ。それから私は、唇を薄く見せるように、口を小さくして、閉じるようにした。

鏡を見てはどうしたら薄く見せられるのか、ものすごく研究した。

大変だったのは、食事の時で、口を開けると唇が元に戻ってしまうので、最小限の大きさで食事をするようになった。上品に食べていると言えば聞こえはいいけど、そんないいものじゃなく、まるで鳥が餌をつつくような量を口に運び食べるようになり、食事にものすごく時間がかかるようになった。

だから絶対に人前で食事はしないと決めた。


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