第23話

デスクに戻ると、川崎さんが出勤していた。昨日は迷惑をかけてしまったから、謝らないといけない。係長に挨拶をして、川崎さんの所に行く。


「おはようございます。昨日はすみませんでした。ご迷惑をかけてしまって」

「白石さん、出勤して大丈夫なんですか? 体調はもどりましたか?」


川崎さんは眉をハの字にして、心配顔で言った。


「はい、大丈夫です。本当にすみません」

「とんでもないですよ。いつも僕の失敗をフォローしてもらっているんですから、なんでもないです」

「夏バテだったみたいです、すみませんでした」

「暑すぎですね」


そう言いながら川崎さんは、手うちわで顔をあおいだ。


「そうですね」


隣に席があって同じ仕事をしているのに、ここまで長く会話をしたのは初めてだった。部長の声は低くて響く感じだけど、川崎さんは、声変りをしていないと思わせるような、男性にしては高い声だ。それがきっと、異性を感じさせなくて心地いいのかもしれない。

私も川崎さんも、苦手なことが同じなのかもしれないなと、ふと思った。


「あの……」


申し訳なさそうに川崎さんがクリップボードを差し出した。


「決裁がたまっていまして……よろしくお願いします」

「分かりました」


私の所で決裁が止まって、たまっていたようだ。それだけは川崎さんも代理ができないのだから、申し訳なさそうにしているけど、悪いのは私で川崎さんじゃない。

いい人だと、今になって思った。


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