第22話
昨日は滅多に行かないコンビニで、お弁当を買って夜ご飯にした。
節約が大切だけど、自分の身体の方がもっと大切だから、ゆっくり休むためにお弁当にしてしまった。
ゆっくり湯船に浸かって、リラックスをしたら、落ち込んでいた気分も少しは良くなっていた。
いつものように出勤して、いつものようにお茶の準備まで整えると、いつもの場所に行った。
「今日も暑くなりそうね」
朝日がすでに暑いくらいで、クーラーが効いているのに、窓際に行くと熱を感じた。
「白石」
一瞬で身体が堅くなった。また何か言うのだろうか。
「部長……おはようございます」
「おはよう……体調はどうだ? 良くなったのか?」
「はい、すっかり……早退して申し訳ございませんでした」
「いや、体調が悪いときは休んでも、早退しても、遅刻したってかまわないから、とにかく身体は大事にしなさい」
「……」
こういう時になんて返事をしたらいいのか、分からなくて困る。ただ下を向くしか出来ない私は、本当に気が利かない。
「一緒にいいかな?」
優しい笑顔で持っていたカップを少しあげた。断るのは失礼だけど、かといって一緒に飲んでどうすればいいの?
迷って返事をしない私に痺れを切らしたのか、部長は先に腰を下ろした。
しかたなく私も座って、一口コーヒーを飲む。
「アメリカは大変だったんだよね」
「……」
「支社が出来て二年目で転勤になり、自己主張の強いアメリカのやり方、接し方に苦労して、なんども日本に帰ろうと思ったよ」
何事も動じない人だと思っていたけど、部長もそれなりに苦労したらしい。愚痴をこぼすこともあるんだ。
「何とか支社を軌道に乗せなければと、がむしゃらに働いた5年間だったし、プレッシャーに押しつぶされそうな時もあった」
「……」
「白石が元気でいてくれて良かった」
「え……?」
「変わらず居てくれて嬉しかった」
「あの……」
「白石」
「は、はい」
「俺がいるから」
「え……」
「頼って欲しいんだ……どんなこともでもいいから……」
厳しい顔しか記憶になかったけど、優しい目で私を見ていた。
「先に行ってるぞ」
優しく寄り添ってくれているのに、放っておいて欲しいと思ってしまうのは、私のエゴだろうか。
でも私の望みは一つだけ
「そっとしておいてほしい」
それだけだった。
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