第10話

ドキドキした。こんなに心臓がドキドキしたのは初めてのことだった。

瞬時に私が思った会いたいと、部長が言った会いたかったは、別物。特別なことじゃない、勘違いをしてはいけない。あの時の二の舞はごめんだ。

私なんかがそんなことを思ったら罰があたる。


「ここで一人で昼を食べているんだろうな、嫌なめにあっていないだろうかと……。寂しくないだろうかと……。それが気がかりだった」

「な、、何を言っているんですか?」


部長は私がここで昼休憩をとっていることを知っていた? それを思うと身体が震えて、痺れがで始めていた。呼吸も速くなり、久しぶりにあの症状が現れる予兆だった。会社で倒れるわけにはいかない。

捕まれた腕をふりほどいて、私は走り出した。


「白石!」


平凡に静かで、私という存在は空気でありたいと願って生きてきた。

それは私にとって幸せで、何より傷つかない方法だったから。それなのに部長が赴任したせいでその日常が一変した。それも赴任初日で。お世話になった人だったから、懐かしく会いたい気持ちはもちろんあったけど、私と部長の会いたいは違う。


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