第9話

「いただきます」


スマホで動画を見ながらのランチも、人がいないからイヤホンは不要だし、地味なお弁当も隠さなくて食べられ、何より食べる姿を見られなくてすむ。

私は、ある目標のために無駄なお金は使わず、節約していた。

人混みが嫌いだし、人に会いたくない私は外食もしない。服はブラウスとパンツのスタイルで、入社からずっと変わらない。


「ふふ……おもしろい」


最近、同じ年代の女性がひとり旅をする動画とてもおもしろくて、ハマってしまっていた。目的を達成したら、私も一人旅に出よう。最初はどこからがいいだろうか。


「おもしろいか? 相変わらずここで食べてるんだな」

「ぶ、部長……」


慌てて立ち上がってしまい、お弁当箱やら水筒やらが膝から転げ落ちて、静かなリフレッシュコーナーは、ガチャガチャと金属音が響いた。


「悪い、いきなり声をかけてしまって」

「だ、大丈夫です」


慌てて拾うけど、部長も一緒に拾い集める。恥ずかしいったらない。


「悪かった」

「お気になさらず。あの、私は終わりましたので、どうぞお座りになってください」


荷物を抱えてその場を離れようとしたとき、部長に腕を捕まれた。


「え?」

「行かないで……ずっと会いたかったんだ」

「……え?」

「ずっと会いたかったんだ。アメリカにいた5年間、ずっと白石に会いたかった」


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