6

 七月十日午前十時半頃、突然に氷妃から亜怪対に電話があり、証言したいことがあるから今すぐ来いと所望した。庁舎にいた捜査員の中で氷妃と面識のある骨刃警視が訪問することに決まり、僕も自動的に同行することになった。

 到着したのは十時五十分頃だった。ガサ入れ以来訪れていなかった鴉楼は、たった数日で憧れから苦い記憶を思い起こさせる場所に変わっていた。

 エントランスのゲートを抜けるとき、警視に耳打ちした。


「ついに、四英傑の一人がサマエルについて証言してくれるんですかね? 気が変わらないうちに早く来いということだったのかもしれません」

「過度な期待はしないでおく。最近じゃ、こっちから連絡をしても話を逸らすばかりだったのに、こうやって人を呼びつけるなんてどういう意図かわかったもんじゃない。自由人過ぎんのよ、あの人は」

「自由ですね、確かに」


 エレベーターホールには十台以上のエレベーターが行き交っていたが、直通で住居部分――四十階から最上階である五十五階――まで上昇するものはない。目指していたのは、エレベーターホールの最奥にある重厚なスライドドアだった。

 扉の横にはオートロックマンションの共用玄関と同様に数字の書かれたボタンと、その下に呼び出しボタンがあった。

 部屋番号の次に呼び出しボタンを押下すると、氷妃の間延びした声がして、扉が開いた。

 床は高級感のあるマットなブラック、壁は天然らしき大理石が惜しみなく使用されていた。四方を暖色の間接照明が照らしていた。

 鴉楼のメインエントランスはビジネスを意識した無機質ともいえるデザインだが、こちらは高級ホテルのような造りだ。四つあるエレベーターの右横には革張りのソファーが置かれていて、ルームキーが手元にないのが不思議なくらいだ。

 エレベーターの天井を見ると、滴型のランプをいくつも垂らしているシャンデリアがあった。人を上下に運搬するだけの機械にさえ特別感を、というデザイナーの意思を感じる。

 このエレベーター以外の移動手段といえば、ビルの東側にある非常階段だけだ。居住フロア(四十〜五十五階)と国際英雄機関本部たらしめている階層(三十九階以下)を非常階段であれば行き来できるらしいが、居住フロアに辿り着くまでに力尽きてしまうだろう。

 垂直方向に負荷がかかったと思うと、エレベーター内の液晶画面の表示する数字がぐんぐん増えていく。直通エレベーターなだけあって、上昇スピードが凄まじい。一分ほどして五十五階に到着した。

 エレベーターを降りるとまた一つ扉があり、マンバンヘアの若い男がだるそうに壁に背をもたれながらスマートフォンで動画を見ていた。男が顔を上げた瞬間に、僕は脳内のヒーロー名鑑を捲り、男の正体に行き当たった。

 Cランクヒーローで、まだヒーローネームもまだついていない新人だ。鴉楼に住む資金力はない。そんな人物がなぜ最上階に?


「最上階はVIPだらけだから、日中は護衛役に一人ヒーロー置いてんの。そうでしょ?」

「そうっすけど、なんすか?」

 警視が警察手帳を提示すると、面倒そうに親指でドアを指した。

「どうぞお好きに」


 護衛とは思えない無責任な台詞を言い放つ彼の横を通り過ぎてドアを抜けると、中央に通路があり、突き当りには非常扉、そして左右それぞれに五つずつ玄関扉があった。氷妃の住居は左側一番奥に位置していた。他の部屋は日本で指折りの金持ちと四英傑が所有していると聞くが、四英傑は氷妃を別にすると鴉楼には住んでいない。スマイルは妻と一軒家で生活していたし、毒公は最近までこのフロアで暮らしていたが、スマイルの事件後に別居していた毒婦が暮らす別荘に身を寄せたらしい。

 チャイムを鳴らして、玄関前で待つ。

 少ししてドアが開くと、その名を表しているかのような、雪のような肌が存分に露出される、モードな黒色のワンピースを着ていた。一見するだけで、粗末な生地を使用していないことがわかる。


「ごめんなさいね、急に呼び出して。さあさあ、中に入って」

 氷妃が左手にあるドアを指さし、恥ずかしそうに言う。

「洗面所に下着置いたままだから、入らないでね」

「承知しました」

 警視が僕の爪先を踏みながら、囁く。

「あんた、一瞬にやけなかった?」

「滅相もない」


 氷妃に促されるまま、玄関からまっすぐ伸びた廊下を歩き、正面のドアを抜けた。そこには僕の暮らしすワンルームの部屋を全て合わせても足りないほど広々としたリビングがあった。暖かみのある床材に合わせた深みのあるアンティーク・インテリアが揃えられていて、服装と同様に彼女のこだわりが見て取れた。


「素敵な部屋ですね」

「ああ、そういうのが趣味なのよね」

「どこで購入されたんですか?」

「いいのよ、無理に質問しなくって。さ、好きなところに座って。今、冷たい飲み物入れるから」


 と、キッチンに彼女が駆けていった。

 好きなところと言われても、と迷っていると、骨刃警視が一番大きなファブリックソファーの真ん中にどかっと腰を下ろした。


「座らないの?」


 我が家のように振る舞う骨刃警視に辟易するよりもはや感心しながら、彼女の隣に座った。

 氷妃が戻ってきて、コップの側面が結露するほど冷えたアイスティーをローテーブルに置いた。紅茶には球形の氷が浮いていた。


「急に呼びつけた用件は? サマエルについて話してくれる気になりました? サマエルが誰の元にあるのか、とか?」

「だから、良く知らないのよ。嘘じゃないわよ?」

「じゃあ、何のために警察に電話してきたわけ? 冷やかしですか?」

「意地悪言わないでよ。きっと聞いたら私に感謝することになるんだから。実は、スマイルが最期に討伐しようとした怪人の動きが直線的だったことに気づいて――」

「怪人を誘引できる技術があるって話?」

「何よ、他の人から聞いてたのね」

 掌を上に向けて、氷妃は肩をすくめた。

「いいえ。だけど、推測はできるから」

「あらそう。優秀なのね」


 二人の会話は、実家の母と妹で繰り広げられる小競り合いと良く似ていた。好敵手でありながら根底には信頼が流れているような、絆とも言いにくい不思議な関係性だ。


「で、その技術は機関で開発したもの?」

「そう。人間では聞き取れない超高周波の音に引き寄せられる怪人の習性を発見して、より効果の高い周波数を研究していたみたい。で、二つの特定の周波数で同時に流すと、効果覿面だとわかって、実地で試験するフェーズだって聞いていたんだけど、今回はそれが悪用されたのかもしれないと思ってね」

「なるほど。乾はサマエルだけでなく、その研究データも盗んだと?」

「この研究は機関内でも有名だったし、乾も勿論知っていたと思うわ。さ、私の話はこれで終わりよ」

「貴重な情報をありがとうございました」


 僕が頭を下げたのに対して、骨刃警視は小さく手刀を切っただけだった。

 長居する余裕もないから、挨拶のあと早々に退出して、Cランクヒーローが動画鑑賞の片手間に護る扉を抜けてエレベーターに乗り込んだ。不意に腕時計を見ると、午前十一時十二分だった。

 五十五から一へ向かって液晶画面の数字がみるみる下がっていく。それに合わせて、股間だけ浮遊するような感覚がしてこそばゆくて、落ち着かなかった。

 爆音がした。

 内臓まで振動する、鮮烈で生なましい衝撃。もはや打撃だった。

 音の発生源は遠くない。ビルの中?

 爆音に紛れた多くの悲鳴。人が多くいる場所で、何かが爆ぜた。

 怪我人は? 死者は?

 心拍数が突如として上がり、頭の中を激流がかき乱していく。誰かが起動したらしい鳴り響くアラームの有害性が、激流にヘドロをどぼどぼ注ぎ込む。

 エレベーターは一階まで僕らを降ろし、出ていけと言わんばかりに問答無用で扉を開けた。

 幸い、開いた瞬間に襲撃に遭うことはなかった。目のつく範囲には誰もいない。


「ミツロウは私の後ろに」


 骨刃警視は雪白刀を悠揚と構えていた。彼女の骨から生成された凄まじく硬質な刀が、間接照明の暖色を吸い込んでいる。

 どろりとした唾を飲み込み、無言で頷く。

 骨刃警視はいつの間にか狐の顔のような造形の仮面をつけ、姿勢を低くしながらゆっくりと前に進んでいく。爆発の影響はマンションのロビーやエントランスまで及んでいなかった。恐らくは正面玄関で爆ぜたんだろう。

 鴉楼で爆弾を使用する行為はテロに他ならない。単独での犯行の可能性もあるが、場所が場所だ。集団での犯行と見るべきだろう。

 通路を進み、オートロックのスライドドアが視認できる位置まで来た。ドアの隙間から埃と火薬の臭いがついた煙が漏れ出してきていた。爆発で立ち込めた煙だろう、と考えていたとき、重厚な金属製がドアがこちら側に向かって凸んだ。その形が、巨大な拳に見えた。

 僕はテロリストの正体を悟った。どんなに肉体を極めたとして分厚い金属板を拳一発で凹ませることなどできやしない。ならば亜人だ。亜人のテロリストだ。

 NHLF、正式には新人類解放戦線。ヒーローとは反対に、その力を国家転覆のためにふるい、多くの人間を犠牲にしてきた暴力機関だ。四年前にアメリカの地下街で毒ガス能力者数人によるテロを起こしたことで、世界に悪名を轟かせた。去年、アメリカ国籍の指導者をヒーローが殺害して、今は日本人がトップに君臨していると聞いていたが、次のターゲットは鴉楼だというのか。

 事態は想定よりも悪い。武器だけでなく、テロリストの能力まで考慮しながら鎮圧することになる。

 状況を英雄機関や警察は把握できているのか? ゲートで常時警備しているヒーローを無力化してから、爆弾を仕掛けたというのなら奴らの戦力は――。

 自分の死が過った。

 抉じ開けられたドアから赤銅色の煙とともにスキンヘッドの黒人が侵入してきた。発達した大胸筋にタンクトップがぴたりと張り付いている。

 崩した英語で、卑しく嗤った。


「変な仮面つけてるが、女に違いはねぇ。今すぐ服脱いで――」


 汚い言葉で警視を汚す前に、男は首を落とされた。首の根元から吹き出した血が天井を染めあげる。

 ここには、髑髏剣姫がいる。


「ミツロウはここで待ってて。一階にいる連中は殺る、秒で」


 言い残し、彼女は煙幕の中へ飛び込んだ。

 男達の呻き声や叫び声が変則的に連鎖し、反響して聞こえた。呻き声を上げた男達の命は既に絶たれたか。

 NHLFは公安により特別テロ組織認定され、制圧時の殺害が推奨されている。でなければ、取り締まる側が殺される。

 同時に、僕は別のことを気にしていた。

 僕らの乗っていたエレベーターが停止しなかったということは、メインエントランス側も動いている可能性がある。通常、アラームが作動するような状況になれば緊急停止するはずだが、システムを弄られたか? 内部の人間が手引きしなければ、これほどまでに首尾良くやれるはずない。

 薄くなってきた煙幕に影が揺れた。

 防御態勢を取るが、その必要はなかった。


「今なら出てこれる。ガラスで怪我しないように注意して」


 仮面とスーツに返り血を浴びた骨刃警視が手招きする姿は、聖戦を描いた西洋絵画のようだった。

 タンクトップ男が破壊したドアを潜り抜けると、悲惨な光景が眼前に広がっていた。

 エントランスゲートの地面が抉れ、その周辺で血だらけの身体がいくつも横たわっている。生気はない。遺体の損壊状況からするに、爆弾には金属球が内含されていたのだろう。爆発力を抑えながら人体へのダメージを高めることができる。

 残忍さに反吐が出る。

 断頭されているのが、テロリストだろう。全部で四人、人種はアジア系が多い。そのうちの一人の腕を骨刃警視がすぱっと切り落とし、僕に投げた。筋肉に力の伝達されていない人の腕の感触がおぞましく、取り落としてしまった。


「何ですか、急に!」

「手首を見て」


 涸れた土のように変色した手首には、小川沿いで蛍を捕まえたときのように合わせられた両手が描かれていた。NHLFのシンボルマークに違いなかった。

 彫って色を乗せるのではなく、特殊なインクを肌にプリントするように塗布してある。一般的な刺青では身体を傷つけられたときに自動的に発動する再生能力が邪魔をしてしまうことから編み出された特有の墨の入れ方だった。


「やはり。これで全員でしょうか?」

「いや、戦闘力は最初に現れた禿頭野郎が一番上だった。あとは雑魚。英雄機関の本拠地に乗り込むのにこれだけの人数しか揃えなかったとは思えない。きっと」

 指さしたのはエレベーターだった。

「本陣は別の階に移動してる」


 国際英雄機関に勤める人間のほとんどが常人だ。NHLFには単独で兵器並みの攻撃力を持つ亜人が複数いると判明している。そんな奴らがエントランスよりも人の多い場所に侵入しているとしたら――。


「虐殺だ……」


 虐殺なんて言葉を使いたくもなかったが、想定し得る最悪を言い表すには残念ながら最適だった。


「居住フロアへの侵入はされてないはず。こっちのエレベーターで三十九階まで上がって、非常階段で一階ずつ降りて確認するしかない」

「しかし、時間がかかりますよ」

「他に案あんの?」


 エレベーターの階床表示ディスプレイを見ても、動いている台はない。十台以上あるエレベーターはいずれも異なる階で止まっている。テロリストが目的の階に到着してから偽装のために異なる階のボタンを押した可能性もある。

 ――ブウン。

 警察庁から支給されたスマートフォンにショートメッセージが届いた。

『二十階 備品管理室 侵入者あり』

 誰からだ? 番号に見覚えはない。

 送信者を判別することが難しい以上、罠である可能性は否めない。いや、躊躇している場合か? もし、生存者が助けを求めているのなら時間がない。一か八か、突撃してみる価値はある。


「骨刃警視、二十階に行ってみませんか? 慎重を期して、安全に」

「こんな状況で安全も何もないじゃん。何で、二十階?」

「僕のスマートフォンにメッセージが。罠の可能性もあるので慎重に」

「……わかった。賭けてみよう」


 頷き合い、エレベーターに乗り込む。

 二十階に向けて上昇する。速さはこんなものだっただろうか?

 頼む。もっと、速く。

 扉が開く。噎せ返りそうになるほど濃厚な血の匂いがした。間違いないようだ。

 いくつもの死体が転がっていた。殺され方は多様だ。焼かれる。凍らされる。殴られる。切られる。捻られる。潰される。直視できない状態の遺体ばかりだった。血の海。錆びた鉄と腐った果実をミキサーに掛けたような新鮮な死臭が漂っている。

 惨い。

 無辜の人々を嬲り殺すことのできる精神がどんよりと浮遊し、油断すれば穴という穴から入り込んで全身を蝕んでいくような。

 撒き散らしている元凶は見当たらないが、声だけが離れた場所から聞こえる。

 エレベーターホールは通路から直接は見えない位置にある。備品管理室はどこにある? NHLFの連中は?

 曲がり角の先の様子を確認するため、スマートフォンのレンズを壁に沿わせながら差し入れる。

 いた。少なくとも五、六人。一つのドアのまえで門番のように周囲を見渡していた。彼らの周囲に転がる死体は数え切れない。

 アイコンタクトをとり、頷き合う。僕は死角に隠れたまま、骨刃警視が仕掛けるのを待つ。彼女は音を立てずに曲がり角を飛び出すと、狐面と、背丈ほどの盾を生成した。

 瞬間、姿が消えた。

 カメラ越しに様子を窺う。

 NHLFの連中は一体どこから入手したのか、露製の三十口径ブラッド・ライフルを構え、焦った様子で連射する。盾を構え、高速で移動する骨刃警視に的中するはずがない。彼らは首や胴体を次々と切り落とされ、絶命していく。恐るべき斬れ味の刀身で切断された断面は樹木の年輪を想起させた。

 見張り役が警戒していた部屋に骨刃警視が立ち入ると、再び物音が始まり、数秒で止んだ。

 静寂が続き、不安が押し寄せた。

 恐らく備品管理室であろう部屋の様子はここからでは窺えない。いくら骨刃警視といえど、一人では捌き切れない人数だったのか?

 もし、警視に何かあったら。

 ドアが乱暴に開けられ、骨刃警視が出てきた。刀を振るい、付着した血を振り払った。


「出てきていいよ」

 テロリストの死体に足を引っ掛けそうになりながら駆け寄る。

「大丈夫ですか?」


 訊くと、骨刃警視が蚊を叩き潰すような無表情で、僕に向かって刀を振り下ろした。

 ――どうして?

 思わず、目を瞑る。

 何がなんだかわからなかった。

 しかし、痛みはいつまでもやって来ない。鈍い音が下で響き、右足に重く硬いものがぶつかった。


「しぶといのがいた」


 恐る恐る瞼を上げて足元を見ると、驚愕に染まった表情で硬直した男の生首と目があった。


「ひっ……あ、ありがとう、ございます。それで、備品管理室には何が?」

「備品管理室はダミー。奥に、もう一つ扉があって、奴らはそこに侵入してた」

「そこには、何が?」

「ヒーロー専用武器の開発室が。研究室のあるフロアじゃなく、こんな場所にあるなんてね。機関内部でも知っている人間は少ないでしょう」

「武器開発ですか。間違いなく機密情報だらけですからね。それで、開発室に被害者は?」

「ちょうど人が少ない時間だったみたいで、二名だけが亡くなってた。ただ、中はもうぐちゃぐちゃ。何百万するのって機材とか、パソコンとかが粉々にされて、あれじゃ復旧は時間がかかるだろうね」

「ヒーロー側がこれ以上に力をつけるのを抑止したかったんですかね」

「データを盗み、破壊することで自分達を優位にしたかった。あり得ない話じゃない。テロリストにブラッド・ライフルを使用してるのがいたし、警察の想定よりも組織として〝発達〟し始めている」


 殺戮に酔っているような連中がこの国を牛耳るようなことになれば、破滅まっしぐらだ。亜怪対を都道府県警に設立するべきだと主張する警察官僚は少なくないと聞く。これを機に急速に形になるかもしれない。


「全く、シャワー浴びなきゃ」


 スーツだけでなく、髪にまで血液がこびりつき固まってしまっている。彼女の香水を覆い隠す生々しい臭いは着替えただけでは落とせない。

 気がかりなのは臭いだけではなかった。


「辛くないですか?」


 全身から放つ臭いに苦笑していた骨刃警視は一瞬時が止まったみたいに表情を強張らせ、長い溜め息をついた。

 斬った相手は人とかけ離れた異形の怪人ではなく、亜人。人を殺めたという感覚は否応なくその手に残っているはずだ。NHLFは絶対悪で、彼女の行為が正しいことは僕も彼女も理解している。けれど、頭と心は構造が違う。

 ややウェーブした毛先を弄りながら仕方なさそうに言った。


「今夜は上手く眠れないだろうね」

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