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 動機を持つ人間の数が多く、サマエルを保有する物や保管場所について、全くといっていいほど手がかりが見つからないまま、時間だけが過ぎていった。

 謎に包まれているサマエルがどんなものなのか判明すれば捜査に進展があるのではと考えていたが、刑事局長の国際英雄機関に迷惑をかけるなという言葉によって、グレーと言える強引な手法をとりづらくなっていた。

 スマイル殺人事件から四日が経った七月三日、捜査に動きがあった。

 骨刃警視のアイデアで、鴉楼に直接モーションを掛けられないのならと研究機材や研究開発用品を搬入している業者に対して国際英雄機関に〝粗〟がないか聞き込みを行ったところ、研究内容については予想通り誰も何一つ知らなかったが、週に一度は納品に来るという業者の男から興味深い証言を得た。

 納品後に立ち寄る小休憩のできるスペースで頻繁に出会う白衣姿の若い女性が数ヶ月前から急に姿を見せなくなったのだ、と。業者の男に対しても、挨拶や世間話を投げかけてくれる感じの良い女性で、納品先の研究室の中でその女性を見かけたことから所属する研究室もわかっていた。見かけなくなってから、納品の際に彼女が所属していた研究室長にそれとなく訊くと、血相を変えて無駄口を叩くなと怒鳴られたことで業者の男に疑念が芽生えた。

 何らかの事件性があるのではと考え、捜索願が出されていないかデータベースを辿ると、該当する人物がいた。

 八ヶ月前、国際英雄機関の忍野研究室に所属する主席研究員、坂口さかぐち朋美ともみ(二十八歳)が失踪した。捜索願を出したのは彼女の学生時代の友人で、突然連絡がつかなくなったことを不審に思ってのことだった。所轄署は捜索願を受理したものの、良くある失踪だと考えて、ろくな捜索を行わなかったようだ。

 取り急ぎ所轄署に送らせた画像ファイルには、笑顔の坂口朋美が同年代の男女複数名と肩を組んでいるところが収められていた。化粧っ気はないが整った顔で、ショートカットの髪型がきりっとした顔に合っていた。校則の厳しい学校のバレー部員をそのまま大人にしたような印象だった。恐らくは、捜索願を出してくれるほど親しかった友人が提供したものなのだろう。そう思うと胸が痛んだ。

 研究員である坂口朋美が知ってはいけないことを知ってしまい、消された。

 亜怪対の捜査員達の頭にはそんな筋書きが思い浮かんでいた。

 一人の研究員の失踪。

 国際英雄機関にあるはずの禁忌。

 二つが脳内でサマエルと繋がった。

 坂口朋美の捜索と絡めて令状を取ることができれば、堂々と鴉楼の捜索ができる。それも、恐らくサマエルを産み出した研究室に対して。

 ネックになったのは捜索差押許可状の請求理由だった。

 坂口朋美が凶悪犯被害に遭っている可能性が高く、職場を捜索する必要がある、という理由で請求するにはまだ証拠が少なかったのだ。どうしたものかと思案したが、所轄署の初動捜査が杜撰なだけだったようで証拠は早くに出た。

 IC乗車カード機能を搭載したアプリの運営会社に坂口朋美の乗車履歴を紹介したところ、失踪当日は自宅マンションから鴉楼への往路分の履歴はあったものの、復路の履歴が存在しなかった。つまり、彼女が何らかの被害に遭ったとすれば、それは鴉楼内である可能性が高い。令状請求は認められるだろう。

 サマエルについて探りを入れることが目的だったが、いつしかサマエルが絡んだもう一つの殺人に手が届きそうになった。捜査員達の心境は複雑だった。ヒーローを統括する立場の機関が重大な犯罪に手を出していたとは証拠が出ていても信じられなかったのだ。

 しかし、警察官としての矜持をもって令状請求をしようとしたタイミングで、上層部から圧力がかかった。それもおかしな話で、一日だけ待てと言うのだ。仕方なく請求を一日だけ先延ばしにしたが、不安は拭えなかった。

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