第一章 炭化した英雄

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 六月二十七日。

 霞が関にある警察総合庁舎八階、エレベーターを降りて右に進み、その最奥に亜怪対の部屋はある。今は照明が落とされ、カーテンで日光を遮蔽しているために真っ暗闇になった部屋の壁には、プロジェクターによって剣呑な一文が映し出されていた。


『今から一週間以内にスマイルは死ぬ』


 SNSに投稿されたのは、昨日未明。アカウントが作成されたのは動画が投稿された一時間前で、このために作ったらしい。

 一般人がこのような投稿をされたら、然るべき手段で投稿者を特定するだろうが、今回は例外だ。


「ありえない。スマイルは無敗で、死ぬなんてありえない。寿命が来ない限りは」

「僕も同感です。彼は世界最強です。悪戯を真に受けていたら仕事になりませんよ」


 僕が骨刃警視側につくと、宮司みやつか課長の瓜のような顔が青くなった。


「二人とも厳しいなぁ。人気者の彼が脅迫を受けることは滅多にないとかで、国際英雄機関からスマイルの保護を要請されたんだよ。ねぇ、尾竹くん、どうして君まで不機嫌なのさ?」

「腹も立ちますよ。現在は活動休止中ですが、復帰の噂もあります。お祝いムードに水を差したいだけの愚かな行為に僕たちまで加担するような真似はしたくありません」

「そんな大袈裟なぁ。もっとラフに考えてごらんなさい。世界一の有名人に仕事の都合で密着できるんだよ。君からしたら垂涎だろう? それじゃあ、この話は鬼塚おにづか君に頼むかぁ? 鬼塚君とあがた君のペアだと臨時でヒーローを護衛に入れるとまた予算が嵩むから嫌なんだよ」


 考えてみた。

 サインをもらうには途轍もない数のボディーガードを潜り抜ける必要があり、サイン一枚で数十万円の価値がある。会うことすら奇跡なのだ。そんな人のそばにいられる。

 こんな機会、他の誰にも渡したくはない。


「骨刃警視、行きましょうよ。機関には話は通ってるんですよね?」

「勿論、スマイル氏にも」

「勝手に話を進めないで。スマイルなんていつでも会えるし。課長、私は行かないですから」

「だったら、僕だけでも行きますよ。ああ、亜人でもない僕がボディーガードをすれば、死んでしまうかもしれませんが、警視の書類仕事は誰がやるんでしょうね?」


 子役のようなわざとらしい台詞を棒読みで言うと、骨刃警視の額に青筋が浮かんだ。


「ちっ、行けばいいんでしょ? ミツロウ、あとで、覚えときなさい」


 骨刃警視はそう言うとデスクから鞄を乱暴にひったくり、出口に向かった。怒りを証明するように壁を殴ると、コンクリートの欠片が壁面からぱらぱらと溢れ落ちた。彼女の手には傷一つなかった。

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