第8話
「ねえマーティ」
「……」
その日、マーティは浴びるようにワインを飲んでは、がくがく震えるばかりで何ひとつ答えようとしませんでした。
時折ゴホゴホと咳き込んでは、涙を流して叫ぶように独り言を呟くのです。
「やっぱりダメだ、ダメだ、僕じゃ本当に美しいヒトを描くことができない」
「そんなことないわ、違うのよ。アナタは美しいという言葉に、未練をこじつけているだけなのよ」
泣きじゃくるマーティにアシュリーの声は届いていないかのようでした。
ああ、この人はどうしてこんなに囚われているのだろうか。目の前にいるアシュリーのことなんて見えてもいないんだわ。
アシュリーはそっと笑って、震えているマーティの銀色の髪にそっとキスをしました。
「えっ」
驚いたマーティが振り返ると、そこには金色の髪を靡かせた——まるで自分の描く絵の女性そのものの姿が。
「これでどう? 少しはアシュリーのことを」
「エリー……」
手を伸ばしてきたマーティは、けれどそのままひどく咳き込んで、倒れてしまったのです。
***
マーティは病気で、あまり長くはないようでした。
うつろな目でベッドに横たわったまま、窓の外を眺めていることが多くなりました。
アシュリーはあれからずっと、絵の女の人の姿で過ごしていました。
その頬を撫で、手を握りながら歌うと、マーティは涙を流しながらも眠れるようなのです。
もう一度、彼が生きる気力をなんとかして取り戻すことはできないかしら。
毎日毎日、髪が金色に染まるように金箔蛾の鱗粉のお茶を淹れながらアシュリーは考えます。
そしてマーティが寝てしまったあとに、そっと街に出てはあの女性の姿を探したのです。
彼女はマーティの婚約者でした。けれど、お金持ちの画家の息子がコンクールでエリーをモデルにした絵を描きたいと云い寄ってきたのです。
エリーはマーティのことなんて忘れてしまいました。バラの花を生ける彼よりも、宝石をたくさんくれる画家の息子の方が、エリーにとっては魅力的に見えたからです。
そしてまんまと彼は、コンクールの優勝も、エリーも手に入れたのでした。
(自分を選ばなかったエリーにいつまでもしがみついていては、マーティはダメになるわ。けれど……)
アシュリーには正解がわかりませんでした。
ドラッグ・ロウは
マーティを骨抜きにして、とっとと怪物にしてしまえばいいのです。
(だけど、それって幸せなことなのかしら……)
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