第7話
マーティの描いた絵は、とても美しい女性でした。
「アナタってすごいのね、それにどうしようもないと思っていたけれど……整えればちゃんとするじゃない」
「いや……でも僕は」
「ふぅーん、これがアナタの思う綺麗な女の人なのね、アシュリー覚えておくわ」
少々痩せすぎてはおりましたが、身なりを整えればマーティはそれなりの紳士に見えなくもありません。アシュリーはすっかり得意げで、彼の隣を歩くのでした。
街の中はアシュリーにはとても新鮮で、あちこちに目移りしてしまいます。
あれは? これは何? と真っ赤な瞳を輝かせて聞いてくるアシュリーに、いつの間にかマーティの表情がふわりと微笑んだような気がします。
「それ!」
アシュリーはそう声を上げました。
「アナタ、もっと笑えばいいのよ。こんな美しい絵も描けて、そんな風に笑って、あとはちょっとばかり生活をね、綺麗にすれば……アナタとっても素敵になるわ」
「そんなこと……」
「どうしてそんなに後ろむきなの?」
アシュリーにはちっとも理解ができませんでした。何かひとつ、素敵なことができればそれで十分誰もが素敵になれると思っていたからです。
それに、マーティはアシュリーのスモーキーピンクの髪を決してバカにはしませんでした。誰にも似ていない、子供っぽくなるこの髪色が実はアシュリーは内心コンプレックスだったのです。
美術商に入っていくときのマーティには、どこかどんよりとした影が落ちているようにも見えました。
そして、肝心の絵はこれっぽちも売れなかったのです。どの鑑定官も冷ややかな目で、彼の絵を見ようともしませんでした。マーティは震えて言葉も出ないようでした。
「大丈夫よ、次また頑張ればいいわ!」
そう美術商のドアを閉めながら声をかけるアシュリーの目の前に、ひとつの馬車がとまったのです。
その中からはひとりの青年と、彼にエスコートされて馬車を降りる美しい——ひとりの女性の姿がありました。
マーティはひゅっと喉を鳴らしたかと思うと。絵も、アシュリーのことも、全てを置いて逃げるように走り去ってしまいました。
アシュリーはなんだか胸が張り裂けそうな、不思議な気持ちになりました。
その女性は——マーティがキャンバスに描いていた人と瓜ふたつだったのです。
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