第4話
シルクのように波立つ空気の中、宙クジラの渡りの道の流れにそって箒を傾ければ、うんとはやくニンゲンの世界への路へと繋がります。
境界線の曖昧になる夜。アシュリーも、街の笑い声や鮮やかな街灯に吸い寄せられるように少しずつ降りてゆきました。
美味しそうな匂いは、きっとどこかの家族の食卓からでしょう。
そっと、誰の目にも触れない高さを飛びながら、どこか独りで暮らしていそうなニンゲンの棲む場所を探しておりました。
ちょうど屋根の高さまで降りたときです。
どさり、と雪おとしたちのイタズラにまんまとはまってしまい、アシュリーは雪まみれのまま地面に落ちてしまいました。
「もう……! 失礼しちゃうんだから!」
きゃっきゃと笑う雪おとしたちは、雪を落とす音でニンゲンをおどろかす精霊です。その音を、ニンゲン達は勝手に死体が落ちてくる音だから振り向いてはいけない——なんて迷信にもしていて、彼らはすっかりいい気になっておりました。
雪のかたまりから身を起こすアシュリーの後ろでは、どさっ、どさっ、どさりっっ! たまらず一番大きな音の後に「いいかげんにしなさいってば!」とアシュリーは振り返りました。
「……えっ?」
なんと振り返った先には、本当に一人のニンゲンが倒れていたのです。
「ちょっと待ってよ、本当に死体が落ちてくるなんて……」
そんなこと聞いてないわ、と言おうとしたアシュリーの耳に「うう……」という弱々しい声が届きました。
思わず近づいて、アシュリーは箒でその倒れているニンゲンを少々つついてみます。「ぐうううう」といびきなのか、お腹の音なのか、よくわからない音が響きました。
「ねぇっ、生きてるの?」
アシュリーはそれが今日はじめて見るニンゲンだということも、すっかり忘れてはしゃがみ込み、倒れていた男に声をかけてしまいました。
うーん、と唸った男は顔をほんの少しばかりあげました。うつろな眼差しが、アシュリーのグロゼイユの瞳とはっきり交差したような気がしました。
「なんだ……ちがうや」
そう呟いたきり、男はばたりと雪の中に顔をうずめ、再び動かなくなってしまったのです。
「ちがうってどういう意味よ! ほんっとうに失礼しちゃう」
アシュリーはぷりぷりと怒りながら、動かなくなってしまった男を起こそうとしましたが、一向に男は起きあがる気配がありません。
これは仕方ない……とアシュリーは呪文を唱え、男の棲む家を探すことにしたのでした。
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