第3話

『誑かしの七週間』

 ・その夜に初めて出逢ったニンゲンを贄とすること

 ・ターゲットを変えてはいけない

 ・自身のもてる全ての術で、そのニンゲンを惑わし狂わせること

 ・ニンゲン自身の意思で同じ怪物となることを選ばせること

 ・期限は七週間以内とする

 ・そして怪物となった者の心臓を食べること



「いいかい?」そう何度もパレードに言い聞かせられながら、アシュリーは身支度をしていました。


「わかったってば。ほんとパレードってば口うるさいんだから」


 グロゼイユの真っ赤に輝く瞳は、まるで星が中で瞬いているかのよう。スモーキーピンクの髪も、雪のように白い肌も、愛らしいアシュリーのままでした。

 夢見がちなアシュリー。ドラッグ・ロウに生まれついたのに、物語のような恋を今でも夢見ている。その天真爛漫さが、パレードには不安でならないのでした。


「い、いいかいアシュリー。ニンゲンなんて、自分よりもさっさと死んじまうんだ。だから怪物になってでもドラッグ・ロウのそばにいたがるような、みにくいみにくい生き物なんだよ。そ、そんなのに、本気で恋をしてはいけないんだから……」

「あーもうわかってるって。ちゃんとやるわよ、今年こそ。パレードもいいかげんアシュリーのおりなんて疲れちゃったのだわ」

「そ、そうじゃないよ。ぼくは、ぼくは、ただ……」

「心配しないで、パレード」


 アシュリーは少しだけ、その瞳を伏せてパレードの包帯だらけの手を握り締めました。


「今年こそはね、やるわ。アシュリーのことを愛してくれるニンゲンの心臓を、見事に持ち帰ってくるわ」

「う、うん。期待してるよアシュリー。きっと奥さまも——」


 ええ。と呟いてアシュリーは箒に跨がりました。


「ママにも伝えて、心配ないわって。アシュリーだってね、やればできるのよ」

「わかったよアシュリー。どうか気をつけて」


 今にもついて行かんばかりのパレードの不安そうな表情に笑いを堪えながら、アシュリーはホテルの屋上を軽やかに蹴りました。


 そらクジラが季節を引き連れ、上空を渡る夜。

 その流れに乗って、世界の狭間の向こうへ。

 魔物たちはめいめいの思惑のもと、ニンゲンたちの世界へと旅立っていったのです——。

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