第2話
【HOTEL GHOST STAYS】には様々なお化けやモンスター、精霊たちが働いておりました。もちろん、滞在するお客さまだってニンゲン以外の
「い、いいかいアシュリー。立派なドラッグ・ロウになるために、明日の出発前に他のモンスターたちを見て勉強しておくんだぞ」
パレードはそわそわしながらそう声をかけましたが、アシュリーは知らんぷりです。さっさとアフタヌーンティーの匂いにつられて、大広間の方へひとり早足で行ってしまいました。
ハーブや茶葉を練り込んだスコーンに、嘆きの森ベリーのジャム、篝火仕込みのクロテッドクリームに、千年楓のメープルシロップ。ザッハトルテには鮮血のクリームを仕込み、シフォンケーキには霞と蚕のメレンゲを。紅茶はどれも香りがよく、食器やクロスまで素晴らしいものばかりが並んでおりました。
お腹も空いて、ほんの少しぷりぷりしていたアシュリーは、紅茶を口にしてほっとひと息。おかわりのベルを鳴らすと、見目麗しい少年がティーポットを持ってやってきました。
「ありがとう……とても美味しいものばかりだわ」
「そう云っていただけて光栄です。当ホテルは季節に合わせその時期一番の素材をご用意しておりますので」
「そう……あら、アナタって」
アシュリーはその可愛らしい鼻をくんくんと動かしました。
「もしかしなくても。アナタ、ニンゲンなのでしょう? どうして? ここにはモンスターや精霊、
興味津々に身を乗り出すアシュリーにポットが当たらないように気を配りながら、少年はふわりと微笑みました。
「おっしゃるとおりです、レディ。当ホテルに唯一のニンゲンとして勤めているユルと申します。幼い頃にこの森に捨てられ、ホテルの皆に拾っていただいたのです」
「へええっ。それはすごいわ、素敵なことだわ! だってニンゲンとモンスターが共に暮らせているということだもの。ねえユル、気になる人はいるの? ニンゲンでもモンスターを心から愛したいと思ったりするのかしら? アシュリーそれがすごく気になるの!」
質問攻めのアシュリーに、ユルはほんの少し戸惑ったようでしたが、彼女が椅子からから転げ落ちないように気を配りながらゆっくりと口を開きました。
「ぼくにはまだ少し早いかもしれません。けれど、ぼくにとってホテルの従業員皆は一緒にいたいと思える家族です。だから例えニンゲンでも、魔物や精霊の方々を心から愛したいと思うこともあるんじゃないかと」
「そうなのねっ。アシュリーね、これからアシュリーのことを心から愛してくれるニンゲンを探しに行こうと思っているの」
「それはまた……可愛らしい旅ですね」
「うん、だって怪物になることを選ばなくったって、愛し合う者たちは一緒にいられるって……アシュリーそう信じてるのだもの」
「……?」
少しばかり首を傾げたユルに「ごちそうさま」と告げ、アシュリーは軽やかに大広間を去っていくのでした。
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