第4話

「お帰りなさいませ。お父様」


私の帰りを玄関で出迎えてくれたのは、

ルイーサファミリーのメイド長オリヴィアだ。

戦闘能力が低く、実戦部隊への入隊は叶わなかったが、メイドとしての能力と、

事務能力に優れており、メイド長と後方支援部隊の統括補佐を兼務している。

淡々としている様に見えるが、本当はとても優しい子だ。

人間の言葉では確か・・・『ツンデレ』?と言うのだったかな。

はぁ、人族の言葉は複雑すぎて、全てを理解することは困難だ。

まあ、それはさて措き、私も返事をしないとな。

「ああ、ただいま。オリヴィア」

そう言った私は、続けて

「この娘に、風呂、着替え、食事を用意してやってくれ。ああ、それと、

この娘は耳が聞こえない。何かを伝える時は、紙に平仮名で書いてやってくれ」

私の注文に、オリヴィアは短く返事を返して、行動し始める。

私は少女に『このおねえちゃんについていけば、もんだいない』と伝え、

その場を後にする。

人間の常識では、血の繋がりのない男が、

少女の裸を見ることは駄目らしいからな。

・・・人間と動物の常識は大きく異なっている。

人間と動物が共存する社会を創るには、この障害を何とか取り除かないとな。



一方、オリヴィアに託された少女は、困惑していた。


「どうして、どれい、やさしく、する」


少女の率直な質問に、オリヴィアは

「ここにきたということは、あなたはもうかぞく、どれいじゃないわ」

と返す。

それでも少女は、ピンと来ていない様だった。

オリヴィアはそんな少女に優しく微笑みかけながら、お風呂に入るように促した。

しかし、少女はどうしていいか分からずに、戸惑っている。

オリヴィアは過去の経験から、少女が一体何に戸惑っているのかを理解して、

「いっしょにはいろうか」

と伝える。

少女はどうすべきか分からず、暫く間オロオロと戸惑っていたが、

最終的には首を縦に振る。

そんな、可愛らしい少女の行動に、オリヴィアはクスクスと笑いながら、

少女と一緒にお風呂に入るのであった。



一方、レオンの執務室にて。


「それで、戦準備のほどは」


私の質問に後方支援部隊統括であるボックが「はい、お父さん」と返事をしながら資料を手渡した。

ボックは獅子ながら、事務能力が高く、戦闘能力が低い。

と言うのも、ボックは足に障害を持って生まれ、早々に親に捨てられてしまった。

そのせいか、自己肯定感が低く、自らを過小評価しがちだった。

故に、私は『暴力だけが武器ではない』と彼に言い“知恵”と言う武器を彼に教えた。

暴力はボックに何も与えなかったが、知恵はボックに的確な判断力と

正しい自己分析を与えてくれる。

昔、知恵は人間にのみ与えられた、特権的な力だった。

だが、進化によって我々もその特権を得た。

ならば、存分にその特権を活用しようではないか。

・・・それはさて措き、ボックから受け取った資料を確認しようか。


~ルイーサファミリーの総戦力~

戦闘メイド430名、戦闘執事570名、回転式拳銃400丁、拳銃330丁、

自動小銃230丁、狙撃銃40丁、C—4爆弾60個、車両55両、対戦車兵器少々、

その他。

(以下省略)


資料を読み終えた私に、ボックは謝罪してきた。

「ごめんなさい。お父さんの名前をだしても、これが精一杯で」と。

私は、軽く笑いながらボックの頭を撫でた。

そして「自己肯定感はまだまだ低いな」と冗談を言う。

そんな私の冗談に、ボックは謝罪をしてきたが、私はボックに謝罪は無用なことを

伝えた。

それどころか、素晴らしい働きをしてくれたと、彼のことを褒める。

実際、どうやって対戦車兵器の様な物騒なモノを手に入れたのか、

その手腕を教えて欲しいものだ。

そんなことを考えていると、風呂、着替え、食事を終わらせた少女を、オリヴィアが

連れて来てくれた。


ふむ。汚れていて気が付かなかったが、意外と整った顔をしているな。

髪も太陽に照られた雪の様な、綺麗な白銀色をしている。

ふっ。ルイーサさんに次ぐ美人になりそうだ。

・・・そう言えば、名前を聞くのを忘れていたな。

私は引き出しから白紙を取り出し「なまえは?」と質問を書いて、

彼女にペンを渡す。

彼女からの返答は短く、こう書かれていた「ない」と。

まあ、予想はしていた。

人間が家畜になってから、食糧問題を解決するために『繁殖』が行われた。

産まれた子供は親の手から即座に奪われ、離れた場所で育てられる。

産まれた時から家畜だった彼らは、人間と言う生物が、かつて地球を支配していた

ことを知らない。

それどころから、人族の言葉を話すことすら出来ないらしい。

まあ依然、高い知能を有しているから、動物の言葉を理解して、

普通に話しかけて来るらしいが。

つまり『繁殖』によって産まれて人間は、人族の言葉を喋れないし、名前すらない。と言うことだ。

私は少女に「ではなまえをやろう」と伝え、彼女の名前を考える。

なに、名付けは初めてではない。今までに、何人もの人間を保護して来たからな。

・・・かつて、人間に己が生涯全てを捧げた、聖人がいたと言う。

まあ結局、後に色々な真実が暴かれ、彼女が聖人に相応しいかどうか疑問視する者もいたと言うが。

だが、それでいい。完璧な聖人などいないし、少なくとも、

彼女は少なからず人々を救った。

言葉だけの政治家や詭弁を弄 (ろう)するだけの評論家とは、

比較にならない程の善人と言えるだろう。

完璧でない善人だとしても、善人であろうとする心を持って欲しい。

その願いを込めて


「おまえのなまえは・・・”てれさ”だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

復讐と銃口 ヒーズ @hi-zubaisyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ