第2夜 何やってんだか
尾行すると決めた私は、早速二人を探し始めた。そう時間が経っていなかったからか、二人の姿はすぐに見つかった。
最初に入ったのはゲーセンだった。
(……あぁ)
私も吉田君もゲームが好きだから、デートの時は必ずここに来る。私と吉田君をよりいっそう繋げてくれた、大切な場所だ。
(よりによって、ここ……)
「あ! 取れた!」
「よっちゃん、そのままそのまま!!」
「よしっ……て、あああ!!」
「もー、よっちゃん下手くそー」
「ほっとけ!」
クレーンゲームは相変わらず苦手らしい。私と来た時にも取ろうとしてくれたけど、毎回上手くいかなくて苦戦していた。
それで一度、私が代わりにやったことがある。
私も別に上手くないし、軽い気持ちだったけど、その時はたまたま取れてしまった。普通に彼氏の面目丸潰れなので、これはマズイことをしたと焦ったものだ。
(でも、あの時の愕然とした吉田君、可愛かったなぁ……)
次は洋服屋だった。
この手の店には、吉田君とはあまり行かない。
こういう所に来てしまうと、男の子としては何か買ってあげなきゃという圧力があるかもと思って、あえて避けていた。
私は収入があるけど、彼はまだ高校生だ。
どんなに値下げしていても、高校生にとって服はけして安いものじゃない。
(こんなことなら、服の一つや二つ買わせればよかったな……)
いやいやさすがにそれは大人げないと、心の中で首を振った。
「ねね、これどう?」
「うん、まぁ……いいんじゃないか?」
「それ褒めてる感じしないんだけどー」
「あ! えっと……可愛いよ」
(すごい慌ててる)
私と一緒にいた時と同じだ。不器用だけど、一生懸命で、優しくて。
せめて、前の彼氏みたいに、実は性格悪いとかだったらまだ救いがあるのに。
(それとも、あの子も遊びだったりするのかな)
次から次へと、突拍子もない妄想が頭を過る。何が嘘で何が本当なのか、考えれば考えるほど訳が分からなくなっていく。
次はファミレスだった。
ファミレスもよく一緒に行ったけど、この店は初めてだ。
私とは入ったことのない場所に、知らない女の子と一緒に入っている。
それだけで胸の内からふつふつと、どす黒い怒りが沸いてくるのを感じた。
「はい、あーん」
「あ、あーん……って、なんで俺が!?」
「じゃあ、よっちゃんがあーんして?」
「う…………はい」
「わーい!」
食べ物を交換し合う二人は、誰が見てもカップルそのものだった。
(……金曜の夜に私、何やってんだか)
もうこれは決定的だ。それなのに、なんで声をかけられないのだろう。
いや、違う。声をかけたくないんだ。
終わらせる瞬間が、終わった後が怖くて。
(トイレ行って気分変えよう)
ガシャンッ
立ち上がった拍子に、コップをこれでもかというほど盛大に倒してしまった。
水が容赦なくテーブルと床にぶちまけられる。不幸中の幸いというか服は無事だが、ひどい有様なのには変わりない。
そして息をつく間もなく店員が駆けつけてきた。お願いだから来ないで……。
「お客様、大丈夫ですかっ?」
「あ、は、はい……すみません」
「いえいえ。すぐにお拭きしますね」
「あ、ありがとうございます」
優秀な店員のようで、すぐさまテーブルと床の水を綺麗にふき取ってくれた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
優秀な店員が眩い営業スマイルを残し、仕事に戻っていく。
正直、私は水なんてどうでもいい。
一刻も早くこの場から逃げ去りたかったけど、もう遅い。盛大な音と店員の適切な対応のせいで、周囲の視線を釘付けにしてしまった。
当然、吉田君と少女もこっちを見ていた。
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