第47話

 何の役にも立たないことを考えているうちに、最後の「はやぶさ2」のところまで来た。朝日さんの説明にも熱がこもる。

「この『はやぶさ2』は、2014年に打ち上げられ小惑星『リュウグウ』に着陸して、6年後の2020年に地球に回収カプセルを届けました」

 へえ、6年間仕事をしていたってこと?

「ちょっと前によくニュースになってたから、興味のある人は見ていたんじゃないかな。とっても賢くて偉いヤツなんです」

 そうね、その間暗くて誰もいない宇宙空間に、ひとりぼっちだったんでしょう?その間、黙々と決められた仕事をこなしていたんだ。

 私に似てるかな。あ、賢くて偉いってところじゃないけど。

 私が事故に遭ったのが5年前だから、それより長いのかあ。アンタも偉いわね、やっぱり。

「そして、小惑星の石とガスを回収できたんだ」

 それを持ち帰ることにどんな意味があるんだろう?こんなにお金と時間をかけて。

 同じような疑問を持った子から朝日さんに質問が飛んだ。

「それって、何かの役に立つんですか?」

「うん、良い質問だ。まず、石とガスの成分を分析して、どんな物質でできているかを確かめる。そして、その成分からアミノ酸や有機物が見つかった。これは、隕石が地球に落ちてくることで、地球上の生命の誕生につながるかもしれないという可能性に繋がるんだ」

「えー」

 生徒が一斉にどよめいた。

「それって、私たちの起源が宇宙から落ちてきた隕石かもしれないってこと、ですか?」

「まああわてないで。そういう可能性を否定できないってくらいの理解で今はいいよ。他にも生命の発祥の理由はいろいろ考えられているからね」

 なんだか話がすごい方向になってきたけど、私たちが宇宙から来たってのは、なんかいいわね。はやぶさ、アンタすごいことやってんじゃん。

「可能性があるってだけでもロマンを感じるだろう?私たちの先祖が宇宙からやって来てるかもしれないなんて」

 何人かの目がキラキラしてきた。こういう話が好きな子って多いよね。

「葵、すごいね!私、驚いちゃった」

「うん、本当にね!ちょっとびっくりだよ」

 6年間もずっと一人でこんな立派な仕事をしていたんだ。

 それに比べて私の5年間は。

 ただ、つらい思い出ばかりが記憶に残っている。

 誰かの役に立ちたいと思って、いろんな仕事を引き受けたり、相談に乗ったりするけど、本当には満たされない。

「それじゃあ、ここからはもう少し時間があるから自由に見て回っていいわよ。奥に売店があるから、お土産が欲しい人はそちらへどうぞ。集合時間に遅れないようにね」

 担任から話があり、みんなもう一度見たいもののところへ散っていった。

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