第46話
ようやくバスが着いたらしく、入り口前が人で混雑してきた。
バスからクラスメートが楽しそうな笑顔で続々と降りてきた。みんな何をやって来たのかな。
この様子なら、一緒にバスに乗っていたらもう疲れちゃっているだろうな・・。
「あー、吉川さんもう着いていたんだね!速いね!」
クラスの子が私たちに声をかけてくる。
「うん、待ってたよ!会いたかったー!」
美海が大袈裟に両手を広げてその子を抱き寄せる。みんながそれを見て爆笑する。
いいクラスだ。
「はい、それじゃあみなさんこっちに集まってくださーい!」
担任の声が響く。いつもより明るく聞こえる。
学校から解放されているのは生徒ばかりじゃないんだな。
朝のように点呼があり、全員がいるのを確認してから、センターの案内の人の説明を聞く。
「こんにちは、案内をする朝日と言います。本日はJAXA筑波宇宙センターへようこそ!」
少し白髪まじりの、でも元気で声にハリのある人が案内をしてくれるらしい。子どものようなキラキラした目をしている。
きっと、宇宙のことが好きで好きでたまらないんだろうな。
「今日は、みなさんに宇宙を好きになってもらいます!何がなんでも好きになって帰ってもらいます!」
なんかノリの良いおっちゃんだ。
「それではこれから展示館であるスペースドームに入ります。この間、地球にカプセルが戻ってきた『はやぶさ2』もあるからね」
はやぶさ、って聞いたことあるわ。どこかの星から石を持ち帰ってきたとかニュースでやってた。
「なんだか、ワクワクするね!見たこともないものを見るのって」
美海の目も輝いているようだった。
宇宙に行って、帰ってくるって、どんな感じなんだろう?何年もかかるんでしょう?その間、何をしているの?
ドームの中に入ると、最初に目に入るのは青い地球だった。
「ところどころに人工衛星が見えるだろう?今までに約12000個の人工衛星が打ち上げられているんだよ」
朝日さんが、生徒全員に対して説明をしてくれる。今回、筑波を選んだのは30人くらいで、圧倒的に鴨川の水族館が人気だった。
人数が少ない分、話は聞きやすかったが、人が密集すると車椅子が邪魔になるので私はみんなが話を聞いている外周にいた。なので、説明も少し聞き取りにくい。
そうなると、自分のペースで見て回る方が楽になる。まあ、表示もあるからそれを読めばわかるし。
みんなの輪から外れて、順路を進むと、金色のアルミ箔みたいなものに包まれた大きな物体があった。
何だろう、これ?
表示を見ると、「放送衛星ゆり」とある。ああ、これが人工衛星なんだ。重さ352kg。以外と重いのね。
その隣には「データ中継衛生こだま」が、「ゆり」とは比べ物にならない大きさで横たわっていた。
え、こんな大きいものも宇宙まで飛ぶの?重さは・・2.8トン!これを打ち上げたのが、玄関の外にあったH―Ⅱロケット・・。
あー、人工衛星って自分で飛ぶんじゃないんだ・・。知らなかった、恥ずいわ・・。
「葵!どこ行ってんの?勝手に進んじゃダメだよ」
美海が心配して私を探しにきてくれた。
「ごめんごめん、暗くてみんながいて、話に夢中になると車椅子で誰かを轢きそうになるから離れてたの」
「またそうやって。だったら私に言いなよ。電動を解除すれば私が後ろから押せるでしょう?」
そうなんだけど。そうなんだけどね。
「遠慮しないでっていつも言ってるよね?私以外の人だって、葵の手伝いをしたいって言ってる人、多いよ。素直にしてもらいなよ」
美海が少しキツめの口調で私に話しかける。
私が素直じゃないだけなのかな。なんか人を頼るのは違うような気がして。でもそれは言葉にできなかった。
「うん、ごめんね。今度から頼むから。でもちょっと一人でゆっくり見たかったんだ」
「それならいいんだけど。葵はいつも人を頼らないけど、それは周囲にいる私たちがなんか役に立ってないというか、ちょっと悔しくなる」
私もその逆を感じているのよ。なかなかそれはわかってもらえないことが多いけど。一方的に心配されるのは嫌なの。
それをされたら、もう友人関係じゃなくなってしまうって思える時があるのよ、美海。私がひねくれているからそう感じるのだろうけど。
でもそれを受け入れないと、うまく関係が作れないから。きっと、一生こんな矛盾した思いを抱えていくんだろうな。
ずっと、ひとりぼっちかな。この先。これは心の奥に潜む私の闇だ。
「ほら、みんな来たよ。一緒に行こ?」
「うん、ありがと」
あのロケットに積んで、私を宇宙に飛ばしてくれないかな。
こんな重い車椅子があったら無理か。私と合わせると100kg以上あるもんね。少しくらいダイエットしても間に合わないよね。
朝日さんを中心にみんなが奥の方に進んできた。今度は私もその輪の外側に一緒について行った。美海が車椅子を押してくれるのかと思ったら、別の同級生がその役目を買って出てくれた。
美海は私から少し離れた場所で他の子と笑って話をしている。でも私の様子はうかがっている。きっと私が困ったら誰かに、手伝ってあげて、と言うんだろうな。
あれは、美海の優しさだ。私が思っていることを理解してくれている。
こんな人もいるんだと、美海と行動を共にするようになって、思えるようになった。
私がネガティブ過ぎるだけじゃんか。きっと、こんな状態じゃなくても私はネガってるんだろうな。
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