第45話
何とか母の心配を振り切り、いつもの通学路を電動車椅子で進むと、途中で美海に会った。
「おはよう!美海!」
「あー、おはよ!葵!」
「昨日、眠れた?見学旅行があるから子どものようにはしゃいで眠れなかったんじゃない?」
「それは葵でしょ」
「私はぐっすり寝たよ。葵は?」
私は、実はあまり眠れなかった。
一人で出かけるのなら、自分の思うように行動できるけど、何人かで行くのは気を遣って過剰に疲れてしまう。
それを想像すると、なんか眠れなくなってしまった。
この高校は、車椅子を使っている生徒が各クラスに2名ずついて、学校全体で自立を促す意識が高い。
だけど、一歩外へ出ると、誰かの手助けが必要になる場面が多くなる。自分の努力だけではどうしようもないことがたくさんある。私が出かけると、クラスの誰かが私のサポートをすることになる。
「私は、楽しみであまりよく眠れなかったな」
楽しみではなく、心配で眠れなかったのだから、ウソをついたことになる。ごめん、美海。
「ほら、やっぱり葵の方がお子ちゃまじゃない」
「そうだね、あはは」
作り笑いをしたが、美海にはバレているみたいだ。
「そう、なんだ。でも、必要なことがあったら、私を頼ってね?私だって、テストの時に困ったら葵の頭を借りるんだから。等価交換よ」
私の友は、私をよく理解している。身体は対等ではないが、全体で判断してくれる。
こんな人ばかりではないことは百も承知だけど。
そうこうしているうちに、集合時間になった。担任の点呼の後、それぞれの行き先に分かれたバスに乗り込む。
車椅子を使う人は、学校が手配した大型のタクシーに乗り込む。電動車椅子は折りたたみにくいので、ワゴン車でなければ運びにくい。バスには載せられないので、移動だけは別々にする。
もちろん、無理をすれば身体だけバスに乗ることもできるが、ついはしゃぎ過ぎてしまい、到着してから体調を崩すこともあるので、私は無理をしなかった。気も遣ってしまうし。その代わり、1名だけ友達がタクシーに同乗できることになっている。
その役を美海が引き受けてくれた。
「さ、行こ!」
「うん」
タクシーに乗り込もうとした私たちのところへ、バスの近くにいた先生が一人駆け寄ってきた。
「吉川さん、何かあったらすぐに連絡してもらえるようになっているから、安心して車で来てね。浜名さんも、楽しいからって羽目を外しすぎないようにね!じゃあ、現地で会いましょう!」
担任ではなく、インクルージョン部顧問の小雪先生だった。初めてみた時は、全然先生っぽくなかった。二柚先輩たちからも、お姉さんのように慕われていた。
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
羽目を外しそうには思われているのね。きっと美海のことだ。
タクシーは高速を順調に走り、天気も良く気分は上々だった。
「これで私が雨女じゃないことは証明できたわね」
「まだ始まったばかりよ。着いた途端に大雨が降るんじゃないの?」
「そんなことありません。それに、着いたら室内なんだから降ってもいいじゃない」
そんな心配がいらないくらい、本当に空がきれいだ。空の色と海の色は似ているから、空でも泳げるような気になってしまう。海なら割と自由に動けるのにな。
宇宙かあ。でも空は無理だなあ。
筑波宇宙センターには、みんなが乗っているバスより、私たちのタクシーの方が早く着いた。
運転手さんが車椅子を下ろしてくれている間は、車内で待っていた。日差しも少し強く、暑いから車内で待ちなさいと言ってくれた。
目の前には、H-Ⅱ型と呼ばれる全長50mもあるロケットが横たわっている。
「大きーい!こんなのが宇宙まで飛ぶの?」
美海が驚いたように独り言を呟いた。
本当に、こんな大きなものが宇宙まで行けるの・・?
二人で目を丸くしていたら、運転手さんが声をかけてくれた。
「このロケットは先頭の部分を宇宙に飛ばすための推進装置で、先頭の三角の部分以外は宇宙に行く前に切り離して燃え尽きるみたいだよ。私もたまにここに来るから」
「えー、そうなんですね!そうですよね、こんな大きなものが宇宙まで飛ぶなんて、ちょっと大変ですよね」
そうだよね、こんな重いものが宇宙まで飛ぶわけないよね。
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