第41話

 その後、教室で宣言した通りプールに向かった。プールサイドには制服を着た浜名さんが椅子に座っていた。

「浜名さん」

「あー、吉川さん、本当に来たんだ!」

「本当って、来ないと思われたかな?」

「いやいや、ごめん疑って!なんか忙しそうだったから。それに」

「それに、なんですか?」

「あ、いや、何でもないよ。ごめんね!」

「言いかけたんだからはっきり言ってよ!なんか、嫌な感じ」

「あー、もう、ごめんって!謝るよ。あのね、吉川さんは車椅子に乗っているから、こんな運動部には入らないんじゃないかと思ったから。だから来ないかなーって思ってたんだ」

「好きなら関係ないって言ったのは、浜名さんでしょう?」

「うん、だからごめん。私が一番軽蔑されるべき人間だ。吉川さんを信じていなかった。自分で勝手にあなたのことを想像して決めつけていた」

 人間には二つの種類がいる。一つは全く想像力のない人で、現実と違うことを自分の価値観で決めつけてくる。こちらは基本的に無視やスルーをするに限る。

 もう一つは、想像力がありすぎて、本当の姿ではない勝手なイメージを浮かべて関わろうとする人だ。私を気遣うあまり、しなくてもいいことをしてくれる。言わなくてもいいことを言ってくる。善意でやってくれる分、断りにくく、こちらの方が対応しにくい。

「勝手に私を決めつけて欲しくないわ」

 ちょっと傷ついたのは確かだけど、こうやってすぐに理解して言葉にしてくれる人もそう多くない。

「ごめんなさい。これからはまず吉川さんにどうしたいのか聞くね」

「うん、わかってくれてありがとう。あらためまして、よろしくね」

「うん、よろしく、葵!」

 え、葵って・・。

「ほら、葵も私のこと、美海って呼んでいいよ!」

「え、待ってよ、今日出会ったばかりなのに」

「出会ってからの時間の長さなんか関係ないでしょ!ほらほら言ってみ!」

「もう、本当に、何なのよ!美海のバカ!」

「えーっと、そっちの子も入部希望なのかな?」

 水泳部の先輩が、水着姿で私たちに近づいてきて声をかけてきた。

「はい、二人で入部希望です!車椅子でも大丈夫ですよね?」

「うん、練習は問題ないけど・・。パラリンピックとか目指すの?」

「はい、葵は世界一を目指します!」

「いや、だから勝手に私のことを決めつけないでよ!そんなの無理に決まってるでしょ!」

「あー、でもそれだって葵が自分でできないって決めつけてることになってない?やってみなきゃ、わかんないでしょうに」

 いや、そうだけど、さすがにパラリンピックは無理だし。

「他人に決められるのは嫌だろうけれど、自分で自分を決めつけるのはもっと間違っているような気がするけれど」

「そんなこと」

 そんなこと、あるのかな。

「うちの部はそこまでスパルタじゃないから、楽しくやりましょうね」

「あはは、そうですね」

 これが私が水泳部に入部した時の経緯だ。


 私が校内のカフェに着くと、美海が席を取って待っていてくれた。この高校のカフェはかなり大きく、ショッピングセンターのフードコートくらいの席があり、お店もいろいろな種類がある。お昼の時間以外は、勉強をしたりおしゃべりをしたり、いつでも人がいる。

 ここは元は図書館だったという。3年前に図書館を改装し、カフェに作り変えたと聞いた。

 今では、本は全て校内のどこでもネット経由で見ることができる。その代わりに、広い空間で仲間と勉強ができる。

 一人で静かに勉強したい時は、個室があるのでそこで自由に勉強できる。

 私は美海の向かい側の席に付いた。

 隣のテーブルでは、課題をやっているグループがいた。みんな思い思いの過ごし方をしている。その隣でガッツリご飯を食べるのは、なんか申し訳ないが。まだ16時だし。

「今日は何にする?なんか日替わりあるかな・・。見にいこうよ!」

「いいわよ」

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