第38話
「ただいまー」
ショッピングセンターから帰宅して玄関に入ると、母が居間から出てきて私を呼び止めた。
「栞、なんか手紙が来てるわよ。珍しいわね」
「ん?ありがとう」
母に渡された手紙を見て、私は慌てた。
丞くんー。
もう返事が来たの?
いや、手紙はさっき投函したばかりだ。葵と一緒に投函したから間違いない。だったら、まだポストの中だ。
え、どういうこと?
頭が混乱している。部屋に戻り、車椅子を降りベッドに横たわりながら、封を開けた。
―葉月栞さま
突然のお手紙、さぞ驚いたことでしょう。すみません。
最後に会えなかったから、どうやって気持ちを伝えようかと悩んでいたら、手紙になってしまいました。
メールだと長くなってしまうのと、すぐに届いてしまうのが怖かったりして。
打ち上げの時には、あまり二人で話せなくて残念でした。周りに友人たちがたくさんいて、時間が取れなかったから。
クラスの皆に伝えたのも終業式のホームルームの時だったから、委員長の村上さんなんかもとても驚いてしまって。
葉月さんにだけは先に伝えたくて、何度か話をしようと試みたんだけど、いつもタイミングが悪くて。
委員会の仕事の後、二人でどこかに行こうと僕が言ったの、覚えてるかな。
あの時、ものすごく勇気を出して、このことを伝えようと思っていたら、葉月さんにあっさりと断られちゃったから、僕はとても落ち込んでしまいました。
やっとの思いで誘ったんだけどな。
それで落ち込んでいるときに偶然村上さんが来て、仕事の進捗について話をしようと言うので、お店に付き合ったけどね。
最初は断ったけど、逆に気持ちが切り替えられて助かったよ。
僕は、あなたに好意を持っていました。
でも、その時には転校も決まっていたので、気持ちを打ち明けることができませんでした。
だって、こんな気持ちを伝えられても、あなたが迷惑になるだけだから。
一緒に委員会の仕事をしたことや、最後に体育館にステージを二人で観に行けたことも、全部大切に思えます。
結果的には、こうやって離れてしまったから、今さら言っても遅いのだけれど、自分の気持ちにけじめをつけたかったので、こうやって手紙にしました。
勝手な思いを伝えて、すみません。
もしあの時こうしていれば、と思うことばかりだけれど、こうやって出会えたことは事実だから。
ありがとう。
またいつか、何年先かはわからないけれど、どこかで会いましょう。
じゃあ、体調を崩さないように。お互いに。
さようなら。
読み終えて、私は泣かなかった。
まだやるべきことがある、と思えたから。
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