第28話
「ちょっといい?」
急に葵が振り向いて、話しかけてきた。今までの話、聞こえてたかな?マズイかも・・。
「今、1年生が必要物品を確認することになったでしょう?」
「え、そうなの?ごめん」
水上くんの話に気を取られて、全然聞いてなかった・・。
「栞、しっかりしてよ。それで、部活動担当とクラス担当が別々に探しても効率が悪いから、協力して一緒にやらない?」
「あー、確かにその方が早く済むかもね。僕は賛成だな」
「じゃあ、他の1年生と話をまとめてくるね」
私の意見は聞かれないまま、葵は他の1年生委員のところに行ってしまった。もっとも、私に、反対する理由なんかないけど。
葵の声かけで、その場に1年生の委員が全員集まった。
「二人1組なら、どっちが休んでも進めるでしょう?それと、これからの学校生活での協力を考えると、別のクラスや部活動担当の人と組んだ方がいいわよね」
葵の意見にみんな頷く。まさに的確な意見だ。
「じゃあ二人でペアを作ってくれる?クラスや部活が被らないようにしてね」
あー、これはなかなか決まらないやつだ。まだ入学して2ヶ月で、他のクラスの人なんてあまりよく知らないし。
葵以外の1年生はあまり知らない顔だし。
水上くんは誰と組むのだろう?やっぱり葵とかなあ?
他のクラスの男子が、葵と組みたがっているようで、もじもじしている。直接言い出す勇気がないのかね。
といって、私も水上くんに言えないけど。
行動に表せないままもじもじしていると、葵が私にだけ聞こえるように声をかけてきた。
「栞は、水上くんと組んでくれる?」
「え?え?何で?」
急に何を言い出すの、葵!
「だって、そうしたー」
私は慌てて葵の口を手で塞いだ。
「ストップ!葵!」
葵に目配せして、顔を近づけて小さな声で話した。
「何てこと言うのよ!」
「何よ、そうしたいんじゃないの?真面目そうな、いい人そうじゃない」
「いやいや、どうしてそうなるの?」
理解が速いことは認めます。でも速すぎます。本人を置いて決めないでよ。こっちにも心の準備ってもんが・・。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ彼は別の人と組んでもらうわね」
ちょっと、待った!
「いや、そうも言ってない・・」
「ハッキリしなさいよ」
「だって・・」
「じゃあ、とりあえず水上くんと組みなさい。私からお願いすれば、やりやすいでしょう?」
「うん・・、わかった、葵がそう言うなら、そうする・・」
勝手に決めて欲しくないと思いながら、結局は自分で決められないし。
葵が水上くんのところに行って伝えた。
「水上くん、あなたは栞と組んでもらっていいかな?車椅子に乗っているのでちょっと面倒かもしれないけれど」
突然、葵が寄って来てそんなことを言うもんだから、水上くんは目を点にして戸惑っている。
「面倒だなんて、そんな」
「え、水上くん、葉月さんと組むんですか?」
そこに、名前は知らないが、一人異論をはさんで来る子がいた。
「村上さん」
水上くんがその子の名前を呼んだ。
「私、水上くんと一緒が良かったなー」
「でも、さっきなるべく別のクラスの人と一緒にって話になったでしょ?」
葵が少しキツイ表情で諭した。
「そうだけど・・、他のクラスの人は知らない人ばっかりだもの」
明らかに、水上くんと組めなくて不満そうな顔をしている。
村上さんって誰?という表情が伝わったのだろう。水上くんが説明してくれた。
「うちのクラスの村上智恵美さん。クラス委員長なんだ」
「こんにちは」
クラス委員長さんですか。でもそれだけじゃ無いような。
「あ、こんにちは、初めまして」
「ねえ吉川さん、どうしても同じクラスはダメなの?」
村上さんが、葵に問いただしている。
「まあさっきみんなで決めましたしね。それに、せっかくだからこんな時くらい、知らない人と交流してみるのもいいんじゃないですか?」
「でも・・」
「村上さんなら他のクラスの人でも好意的に組んでくれますよ」
「そうかしら・・。吉川さんにそこまで言われるなら仕方ないわね」
村上さんが少し喜んだ表情であきらめたようだ。
「じゃあO Kということで!よろしくお願いします!ほら、栞、あとは頼むわね」
「はい、わかりました・・」
なんて強引な進め方だろう・・。私、一言も口を挟めなかった・・。
「葉月さん、なんか頼まれちゃったから、よろしくね」
水上くんが笑顔で答えてくれたのが救いだった。
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
強引ではあるけど、感謝するわ、葵。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます