第27話

「栞、もう来てたの?ここ空いてる?」

 あとから来た葵が、私たちの前の空いている席に着いた。

「あ、葵、ごめん!今日は部室に寄らなかったから」

「掛け持ちで大変だと思うけど、先輩方もいるんだから、たまには部室に寄って何か手伝ってからこっちに来なさいよ」

「あー、ごめんなさい」

 葵と話をしていると、水上くんが少しソワソワして、葵のことを気にし始め出した。

「あ、葵!こちら4組の水上くんで、クラス担当の実行委員なの」

「1組の吉川です、初めまして。よろしくお願いします」

「あ、水上です。こちらこそよろしくお願いします」

 葵はそのまま興味なさそうに前を向いた。水上くんはもう少し話をしたそうだった。


「それじゃあ、委員会始めます。まずは連絡事項から」

 委員長の声で会議が始まった。

 葵、なんて思ったかな・・。別に意地悪して声をかけなかったわけじゃないんだけど。

 ただ、ちょっと急いで委員会に来たくて。

「吉川さんって友達なの?仲良いの?」

 水上くんが私にだけ聞こえるように、顔を近づけて話しかけてきた。

 顔が、近い。

「葵は誰にでも同じ態度を取るから、ポーカーフェイスでちょっとわかりにくいところがあるけど、仲はそんなに悪くないです」

「今年は車椅子の子が8人いるって聞いたけど」

「そうなんです。各クラスに2人ずつ」

「みんなあの部に入ってるんでしょう?えーっと、インクル・・?」

「インクルージョン部です」

「そうそれ!去年も先輩方が大騒ぎになってたよね。雑誌に載ったとか」

「はい!文化祭で部活動の活動記録を出しますよ。よかったら見に来てください!私も一応担当なので・・」

「そうなんだ、それは是非見に行くよ!でも両方掛け持ちで委員なんだ。大変そうだね」

「人に頼まれるとなかなか断れなくて・・」

「優しいんだね」

 今、葵の肩が動いたような気がするけど、気のせいかな。

「いやいや、そんなことありませんから!要領が悪くて」

「そこ、話聞いてる?」

 司会の委員長に睨まれてしまった。

「委員は、各クラスからと、文化系の部活動からそれぞれ選ばれています。今回は各学年に分かれて一緒に業務をしていきます」

 体育会系の部活動は、文化祭には参加しない。だから葵は今回はインクルージョン部の担当として委員になっている。

「1年生の委員は、各クラスから上がってくる計画書から、必要物品を抜き出し学校で所有してあるものとの照合作業を行ってください。昨年のリストも確認して既にあるものは買わなくていいので。予算を有効に使う大切な仕事です。全部で3学年12クラス分あるからね!」

 わー、これは大変な仕事が回ってきた・・。今のおしゃべりのせいではないと思うけれど。

 大体、入学したばかりで備品がどこにあるかも分かんないし・・。

「これは結構キツイ仕事が回ってきたね。でもがんばろうか」

「はい!よろしくお願いします!」

「吉川さんはクラスの委員じゃないの?」

 水上くんの声がまた小さくなった。

「葵は、部活動の方の担当ですから、違います」

「そうなんだ、いろいろ仕事できそうな雰囲気あるよね」

 葵を見たほとんどの男子は、葵に興味を持つ。長い黒髪、引き締まった顔立ち、水泳で鍛えられたスタイル、無駄のない会話、判断の的確さと速さ、成績はトップクラス。そして時折しか見せない笑顔。どれをとっても、非の打ち所がない。

 車椅子に乗っていることなんか、何のハンデにもなっていない。

「うん・・・、とてもテキパキ仕事しますよ・・」

「見た目も綺麗だし・・。誰か付き合っている人とかいるのかな?」

 やっぱりそう来るよね。ここに男子が100人いたら、100人全員同じ質問をするわ。

 でも彼氏の話は聞いたこと、ないな。

「まだそんな話を聞いてないですけど。水上くん、立候補する?」

「いやー、僕なんかには高嶺の花だから合わないよ」

 そうかな。織姫と彦星にはちょうどいい気がするけれど。


 私には自分が男の子と付き合うとか、全然想像ができない。

 まず、車椅子に乗っている段階でアウトだろう。どこに行くにもいろいろ面倒なことが多いし、どこでデートすればいいのだ?

 それに、手をつないで歩けない。いや、できないことはないけど、きっと苦労する。私は座っているから、手が同じ高さにならない。すぐ疲れちゃうよ。それに、側から見たら不格好だろうし。周囲の目も気になるだろうし。

 そんなことを許してくれる相手なんか、いるもんか。

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