第22話

「紬ちゃん、来たわね」

 音楽準備室に入ると、あゆみさんが声をかけてくれた。他のメンバーも全員揃っている。

「すみません、先輩方をお待たせしてしまって。廊下で部活の子に仕事を頼まれてしまって職員室に寄ったものですから・・」

「うん、いいんだよ」

「調子はどうなの?」

 桜子さんが負担にならないように優しく聞いてくれる。

「また大学病院で診察を受けましたが、大きく様子は変わっていませんでした」

「そうなのね・・」

「何か、心理的な負担が影響してるのではないか、というようなことを言われました」

「うん、そうなんだね」

 なかなか話を切り出してくれそうにない。やっぱり話しにくい内容だし。


「それで、この間私が言ったことを考えていただけたでしょうか?別の人を入れてグルーヴに臨んで欲しいと」

 私から話をすると、4人が顔を見合わせ何か合図を送るかのような表情をした。それからあゆみさんが話をし始めた。

「うん、それなんだけどね、私たち4人で考えたんだけど、今回は出場を見送るということでどうかな?」

 え?

 最悪の選択肢になった。いや、私の中の選択肢にそんなものない。

「どうして!」

「紬ちゃん、話を聞いてね。もうこのバンドは、紬ちゃん抜きでは考えられないバンドなの。だから今から別の人を、なんて考えられないの」

「去年までいた人に手伝って貰えば・・」

「そんなわけいかないわよ。1年近く一緒にやってなければ、うまく音を合わせられるわけないでしょ?そんなことくらい紬ちゃんにだってわかるでしょう。ただ演奏ができればいいわけじゃないのよ」

「でもそれじゃあ、先輩方が目標にしてきた出場が・・」

「目標にはしてきたけどさ、去年も呼ばれなかったし、私たちだって紬ちゃんがいたからこんな夢を見られたわけだし、がんばればまた来年もあるし」

「来年って、受験とかで、もうバンドなんかやってる場合じゃないでしょう・・」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。そんなのやってみなきゃわからないよね」


 そうだけど。

 私のせいでグルーヴに出られなくなってしまった。私が先輩方の夢を奪ってしまった。どうしてこんな時に動いてくれない身体なんだろう。

 がんばれば、努力すれば元に戻るわけではない、でも引くことも許されなくなった。

 私はこのままどうすることもできない。前にも後ろにも進めない。

 いつも、誰の役にも立てず、迷惑しかかけられない。

 またひとりぼっちに戻ればいいのだろうか。

 このまま生きている価値なんてあるのだろうか。


 さっき葵が「死に場所に向かうみたい」と言っていた。怖いなあ、葵。私の未来を予測してたみたいだ。

 先輩方が出場をやめるなんて、私にとっては死ぬより辛い宣告だ。

 それなら。

「どっちにしたって、全部私のせいです!」

 私は準備室を飛び出した。

「待って、紬!」

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