第17話
「ねえねえ紬、なんか凄い大会にバンド出るんだって?昨日友達が紬のバンドを見にライブハウスに行ったら、入れなかったって言ってたよ!」
「へー、すごいね、本当なの?」
同級生の山口彩香が私に話しかけてきた。それに栞が興味を持って寄ってきた。
「あ、うん、そうなんだ。その友達にごめんなさいと伝えてくれる?」
「もうそんな人気なんだね。大会ってどんなの?」
「ガールズバンドグルーヴ、と言って、大会側が選んだバンドが招待されて行われるの。年1回しかないから、これに出るのを目標にしているバンドも多いみたい」
「うわー、そんなすごい大会なんだ!それに招待されたってこと?すごいねー!」
「うん、先輩方の実力がすごいから、私なんかが足を引っ張らないかって心配で・・」
「そんなことないよー。文化祭の時の紬、カッコ良かったもの!」
栞がそう褒めてくれるけど、そんな余裕あったんだ。
「今度はライブ会場に見に行かなきゃね。あ、でもチケット取るの、難しいの?」
「グルーヴに出るって決まった途端にお客さんが増えちゃって、昨日は当日券を売らなかったの。ちょっと会場も大変な雰囲気になっちゃって・・」
「ひぇー、それはすごいね。私、さっきからすごいとしか言ってないけど」
栞が笑いながら、すごいと連発している。栞、最近ちょっと明るくなったかな。
「でも心配ばかりが大きくなっていくの。私、大丈夫かな」
「まあ、あまり気を詰めないで、演奏に集中したらいいんじゃない?」
「うん、そうなんだけどさ・・」
「紬の実力なら大丈夫だって!」
「うん、ありがとう・・」
そうは言うものの、やっぱり不安が頭から離れない。みんなの応援はうれしいが、それがプレッシャーになってきているような。
「でもさ、紬、変わったよね。なんかこう、話しやすくなったって言うか・・」
彩香が急に話題を変えた。
「へ?前は話しにくかったの?」
「話しにくいというのではないのだけれど、なんか相手本位で話をしてくれるというか・・」
「前は?」
「前は、自分のペースで話をしてたような感じで、用が済んだらあっち行ってよね、みたいな?」
「うわー、それすっごい、ヤな奴!」
「嫌な奴とまでは思ってないけど、話しかけにくかったところはあったよ。クラスの女子でもちょっと話題にはなっていたから」
「ごめんなさい・・」
「ううん、だからバンドに入って良かったんだろうなーって思えるから。私もそういうの、見つけたいな、ってね」
ある日の練習で、桜子さんがネコ耳の形をしたカチューシャのようなものを持ってきた。
「ねえねえ、叔父さんからこんなものを預かったんだけど」
「何、それ?」
「なんだ、ネコ耳か。それをつけて演奏しろってこと?叔父さんの趣味なの?」
舞花さんが笑っている。
「いや、これは紬専用で、中にI C部品が入っていて、音楽のリズムに合わせてこの耳が光るようになっているみたい」
「へえ、どうやって使うんだい?」
「最近の曲の途中に、みんなで拳をあげてリズムをとるところがあるでしょう?お客さんもみんなノってくれるところ」
「あー、会場と一体感を感じるところね」
「あそこって、ピアノが入るから、紬が腕をあげられないでしょ?」
確かに、あの部分は自分でもちょっと寂しさを感じていた。一番盛り上がるところなのに、演奏が入るから左手はピアノを弾いている。右手はそんなに高く上がらないから、メンバーやお客さんと一緒にリズムを取れない。車椅子だから足で踏むこともできない。
「何とかなんないかなと叔父さんに聞いてみたんだ。そうしたら、大学の応用電気研究所の先生に聞いてみてくれたらしく、無線で同期して音楽に合わせて光るようにできるって、試作してくれたらしいの」
「えー、そんなこと考えてくれていたんですか」
「昔、テレビの年末歌合戦とかで使っていたんだって。これは音楽に同期するようにプログラムしてあるから、紬のP Cに設定してキーボードの速さに合わせて光るらしいよ。ちょっとやってみようよ」
P Cには音源のデータが入っていて、それがキーボードとつながっている。そのデータに光らせたいところを入力すれば、ネコ耳が連動して光る仕組みだ。曲が遅くなったり早くなったりしても、その動きを読んで自動で合わせるから、人が操作する必要はないみたい。
「おー、どれどれ」
舞花さんが設定を始めた。試作してもらったアプリをインストールすると簡単に設定できた。
「じゃあ紬、これ頭につけて」
「私だけですか・・、なんか恥ずかしい・・」
「曲、行ってみよう!」
さっき入力した曲を私が弾くと、曲に合わせてネコ耳がピコピコ光ってる。なんかかわいい。
「ところで皆さん、何で笑ってるんですか!」
「いやだって、あまりにかわいいから・・。ククク・・」
4人でゲラゲラ笑い出した。うー、しっつれいな!
「ごめんごめん、紬はこういうかわいい路線でも大丈夫だな。眩じゃあちょっと無理かな」
と言われた途端、眩さんが寄ってきてネコ耳をじーっと見つめている。
あれ、眩さんネコ耳に興味ありそう?
「でも、これで紬もお客さんと一体になれるね」
「はい、とってもうれしいです!」
「何でも考えることができるんだね。できないと思ってあきらめちゃ、ダメなんだね」
翌日のライブでそのネコ耳を披露すると、観客もそれに合わせてサイリウムを振りながら点滅させてくれた。最初は、わー何あれー?という反応だったけど、すぐに私のためのものだとわかってくれて、前にいる人が私に合わせてサイリウムを点滅させたのを見て、みんな真似してくれた。
道具一つでこんなに人との関係を変えることができる。これって、すごいことよね。
「いいわー、これ!私もこの曲の部分、気になってたのよ。なんとか紬ちゃんが入ってこれないかなって」
ライブに来てくれた二柚先輩がそう言ってくれた。七津先輩と愛来先輩、春陽先輩は私からネコ耳を奪って自分たちでかぶって、キーボードを弾いて遊んでいる。
「それ、試作品だから高価だと、叔父さんが言ってたわよ。壊さないでくださいね」
「ひぇー!」
「ねえこれ、たくさん作って売り出したら!」
「メンバー全員着けるのは?あと、お客さんも全員着けちゃうとか。会場がかわいくなるよ〜!」
「眩もつけようよ!」
うん?ちょっと似合いそうで、怖い。
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