第15話

 演奏が終わり、機材の片付けをして控室にいるところに葵がやってきた。

「紬、お疲れさま」

「ありがとう!うまく行ったかな?」

「もちろんよ」

 そこに栞がやってきた。葵と栞は一瞬お互いを見たけれど、すぐに栞が私に向かって話し出した。

「紬、すごい!どれだけ努力したかがわかるわ!」

 栞は少し興奮してるようだ。

「ありがとう、二人とも。でも緊張して結構間違えたのよ」

「ううん、そんなこと以上に胸に突き刺さってきたわよ。あのボーカルの吉野先輩だっけ?いい声よねー、惚れ惚れするわー」

「うん、みんな優しい先輩なの」

「いいなあ、あんな人に毎日歌ってもらえたら幸せだろうなあ」

「あ、そういえば栞、さっき男子と一緒にいなかった?ステージから覗いてたら見えたんだけど?」

 二人の動きが止まった。

「えー、あー、いやそんなこと?あー、クラスの男子とみんなで来たから、それじゃないかなー?」

「あ、そうか。なんだ、なんか寄り添ってるように見えたから、もし仲のいい男子ができたりしてたら、後で吐かせようと思ってたのに。つまんないの」

「いやー、そんな訳ないじゃない!演奏前だから緊張してそんな風に見えたんでしょうよ」

 でもやっぱり二人とも私と視線を合わせない。葵も笑顔だけど目だけ笑ってない。とりあえず別の話題を振ろう。

「クラスの出し物はどうだったの?全然手伝えなくてごめんなさい」

 葵に様子を尋ねる。

「それは大丈夫だったわよ」

「そうなんだー、よかった。バンドの準備で展示とか全然見てないから。部の展示は?愛来先輩と春陽先輩でスライド説明があったんでしょ?」

「結構お客さん入ってたわよ。二人でかけ合い漫才のように面白い説明だったし」

 葵が栞を見ないですらすら説明する。

「それは見てみたかったなー。動画は撮ってるんでしょう?今度部室で見せてもらおうっと」

「紬―、片付け終わった?このあと打ち上げに行くよ!」

 あゆみさんが声をかけに来た。

「はい、わかりました!」

「じゃあ、紬、またね!私は実行委員会に戻るわ」

「私もクラスに戻るね」

 葵と栞が一緒に出て行ったけど、何か変?二人の間ってこんなに距離あったかな?


「お疲れ様でした!」

 打ち上げは、この間行った駅前のワックだった。あゆみさんが、車椅子が入りやすい店を探してくれたら、やっぱりここになった。

 この間、二柚先輩が微妙な態度になっていた大学生さんは、今日は見かけなかった。

「今日はよかったよ!文化祭までにキーボードが見つかって、よかった、よかった」

「しかも紬の演奏は最高だね!ほら私の目に狂いはないでしょう!エッヘン!」

「あんたが見つけたわけではないでしょう」

 みんなライブ終了後の高揚感もあるようで、私を褒めちぎっている。なんだかこそばゆい。

「大変なことに巻き込んでしまってごめんね。嫌じゃなかったかな?」

「嫌だなんてそんな。こんな機会を与えてくださって感謝しています」

「操作は上手くいったのかな?改良するところがあれば教えてね。大宮先生とも相談するから」

「今日の曲なら十分だと思います。でももっと音を増やすなら、キーボードを2段にするとか」

 少し慣れてきたから、曲によっては、もう一台位あってもいいよね。

「おおー、すごいそれは!操作が複雑そうだけど」

「また今度ライブハウスに出たりするから、追々と広げて行こう」

「そうですね、焦らないでゆっくりやります。キーボードを買うお金も貯めなきゃですし」

「今日はかなり疲れたんじゃないの?初めての経験だから、ゆっくり休んでね。明日は学校も休みだし」

「はい、ありがとうございます」

 実は少々身体がキツくなってきている。この辺で帰らないと、家までたどり着けるかわからない。

「うん、みんなも疲れてるから、そろそろ今日はお開きにしようか。紬の家に近いのは誰?一緒に帰ってあげて」

「あ、私だ。じゃあ紬、行くぞ」

 えー、眩さんと家が近かったんですか・・?

「はいー?ありがとうございます・・」

 うー、いつもあんまり話してないから、気まずい。話しかけにくい・・。一緒に帰るなんて初めてだし。でも、元々無口だから、あまり話をしなくても大丈夫かな。

 でも、眩さんの一言から始まったんだ。ぶっきらぼうに私に聞いてくれたから。今では感謝しかないよ。

 少しの間、沈黙が続いたが、突然眩さんが私を呼んだ。

「紬」

「はい!」

 え、何なに?私何かした?

「バンド、やってよかったな」

 眩さん・・、今二人きりの時に言うのは反則だよう・・。

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