第4話
連休明けに二柚先輩からメッセージが来た。部長の愛来先輩からは時々連絡は来るけど、大抵は部活動の業務連絡だ。
それでも普段はほぼ毎日部室で顔を合わせているのに、直接メッセージとは珍しい。
何だろうと思いながらメッセージを開くと、明日放課後話したいことがあるのだけれど、時間取れる?という内容だった。
何もなければ部室に行くつもりだったので、いいですよと返信をしておいた。
めずらしいな、私なんかに話したいことって、何だろう、何か迷惑かけたかな。緊張しちゃう。
部室に行くと葵がいたので声をかけた。葵とはクラスが違うが、同じ車椅子乗りというか、考え方が近いので部活以外にも話をすることが多い。
まあ、葵はまとめ役みたいなものだから、インクルージョン部のみんなとは誰にでも優しいけど。
「あ、葵がいる。ちょうどよかった、相談があるのだけれど・・」
「あら紬、どうしたの?」
「あのね、さっき二柚先輩からメッセージが来て、なんか呼び出されちゃったの。なんだと思う?」
「なんだと思うと言われても、本人に聞くしかないでしょう。用件は言われたの?」
「いや、それが何も言われなくて、ただ明日ねと言われただけ。私なんかやったかな?・・」
「うちの先輩方に限って、そんなことは無いでしょうよ」
「なんか怖いな。叱られるかな。葵、明日ついてきてよ」
「そんな心配いらないって。それに私は明日水泳部に行くし」
「えーん、なんか不安だな・・」
「大丈夫だって。なんかあったら連絡していいわよ」
葵にはそう言われたものの、あんな偉大な先輩に呼び出されるなんて・・。
「昨日突然メッセージしてごめんねー。今日は忙しくなかった?」
翌日部室に行くと、二柚先輩が七津先輩と二人で待っていてくれた。二人とも、いつ会っても笑顔が素敵だ。あこがれの先輩二人を独り占めして、もうなんか最高。
・・なんだけど。
「もしよかったら、今日これからバンドの練習を見に行かない?前に話した私の同級生がやっているバンドだけど」
ああ、歓迎会で話していたことか。なんだ、よかった。
「はあ、これからですか?」
「うん、急な話になっちゃったけれど、今日はスタジオで練習するって聞いたものだから。向こうは見学は大歓迎って言ってくれているの。七津も一緒にと思っているけれど、どうかな」
バンドは見てみたい。今まで一度も見たことがない。人と一緒に楽器を演奏するって、どんな感じなんだろう?
「その子から、誰かキーボードを弾ける子がいないかなって、言われているのよ。私的にはうちの部から誰かいるとうれしいなー、なんて思っちゃたりして・・」
二柚先輩がキラキラした目で私を見つめて話をする。
でも一緒にやろうとか言われるのは困る。私のピアノはそんなピアノじゃない。ひとりぼっちでしか弾けない。
なんか複雑な心境だけれど。
そう不安が顔に出ていたのだろう。七津先輩がにっこり微笑んでくれた。
「大丈夫、すぐにバンドに入ってくれと強制されるわけじゃないから。見学してそう言う気持ちになったらやればいいんじゃない?もし無理にバンドに入れなんて言って来たら、私たちが盾になって守ってあげるから!」
「あ、はい。ありがとうございます。それでいいなら行ってみたいと思います」
「よかった。中央町にあるライブハウスって言ってたから、30分くらいで着くかな」
「電動車椅子3台も行って大丈夫なの?」
「わりと広い場所だと言っていたわよ。私もライブハウスには行ったことがないから、行く機会ができて嬉しいよ。地下だけどエレベーターはあるって言ってたし」
「えー、先輩方も初めてなんですか」
「そうね、混むところはどうしても避けてしまうから。今日は練習だからお客さんはいないのでしょう?初めてならちょうどいいんじゃない」
「そうですね、それなら安心です」
ライブハウスかあ。初めてだなあ。コンクールで大きなホールの舞台で演奏したことはあるけれど。どんなところなんだろう。
ほっと一安心したところに、葵から電話が来た。
「紬、今電話出られる?どうだったの?」
「葵、ありがとう。あのね、ライブを一緒に見に行かないかって話だったの」
「ほら、悪い話じゃなかったでしょう?紬がピアノ弾いてるから誘ってくれたんでしょうよ」
「うん、その話は前にしてたんだけど、2年生の先輩がやってるバンドでキーボードが抜けちゃって。困ってるって」
「それは、バンドに誘われてるということかな」
電話の向こうで、葵がニヤニヤしているのが伝わってくる。
「うーん、でも私、人と一緒に演奏したことないからなあ」
「最初から諦めないで。違う自分もいるってわかるのもいいんじゃない?」
「そうかなあ。私は私だけどな」
「とりあえず、あれこれ考えないで行って来なよ」
「うん、わかった。行ってくるよ。ありがと、葵」
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