3-5.全て世は事もなし(1)
「……腹減った」
「……目が覚めて最初の台詞がそれってすごいな」
数日間眠り続けた俺があまりにも普通にそう言ったので、
寝ている間に世話をされていたことに関しては察しているが、それについては深く考えない方が俺の精神衛生上良い。着ている物が違うが見なかったことにする。
食べながら、
「あいつに借りは作りたくなかったな……」
心底苦々しい顔をした俺に、
「気持ちはわかるけどね。悔しいけど助かったよ。俺じゃどうにもできなかったし」
「……そうでもないだろ」
「ん?」
「お前は、結構役に立ったぞ」
最終的に祓ったのが靖文だったとしても、
そう告げた俺に、
「それより
「まー……ぎりぎり」
「ぎりぎりってなんだぎりぎりって。半分消えかけてたりしないだろうな」
ぞっとして、
ひとまず肉体は実存することを確認して、長く息を吐く。
「びびらすな……」
「いやびっくりしたのこっちだよ。俺がやったら怒るのに、自分がやるのは躊躇ないのか」
「あぁ?」
「うわぁこの人自覚ない」
どういう意味だ、と睨むも、何でもないと手を振られる。諦めてんじゃねぇよはっきり言えよ。
「なんかおかしかったらすぐ言えよ。本体に戻っちまったら、今の姿への戻し方はわからんぞ」
「え」
夢に介入してきたのは鋏の姿だったから、万が一の事態すら考えた。
目を開けて真っ先に
そんで安心したから腹が減った。正直重湯では全然足りないが、まだ胃が弱っているし、少しずつ増やした方がいいだろう。空腹を意識すると、きゅうと胃が鳴いた。よしよし、今度いっぱい食わしてやるからな。
俺が寂しがる胃を撫でて宥めていると、
「なんだ」
「え……え、や、
「……ああ」
どうしたものかな、と考えて、俺はのそのそと布団に潜った。
「寝る」
「はあああ!?」
大声を上げて、
「今の流れで寝るか普通!?」
「うるせえ病人を揺らすな。まだ頭がちゃんと回ってねぇんだよ」
「何それ言う気なかったってこと!? なぁ、もしかして俺と初めて会った時のこと覚えてる!?」
「うるせえうるせえうるせえ」
「
背を向けて目を閉じているのに、
くっそ、やりにくい。
「~~っあのなぁ! とっくに気づいてるに決まってんだろ! だってお前が持ってんのあん時の鋏まんまじゃねーか! 阿呆か!」
怒鳴りつけるようにした俺に、
「な……ならなんで、今まで、言わなかったんだよ」
「言えるか! あん時俺がいくつだったと思ってんだ! 思い出すと羞恥で死にたくなる忘れろ! 若気の至りだ!!」
くっそ顔あっつい。絶対耳まで赤い、と俺は隠れるように頭まで布団を被った。
一言一句鮮明に覚えているわけではないが、何やらこっぱずかしいことを口にした気がする。思い出したくもないだろ十年以上前の自分なんて!
「何だよそれぇ……」
ひどく情けない声を出した
俺の方も布団から顔を出せないので、結局見ることはできなかった。
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