Turn Back Time 君とまた出会うために

詩月 彩

モノローグ 最後に見た君の笑顔…

 12月23日、水城高校終業式。高校3年生の柴崎匠は、この日、昼で学校が終わった後、クラスメイトの一人と、遊びに行く約束をしていた。ピンポンパンポーンという音と共に帰りのホームルームが終わると、皆足早に教室を後にしていた。俺は、早くそのクラスメイトと共に(…デート)違う…ある目的の場所に行きたいがために、カバンに荷物を急いで詰め込んでいると、財布がないことに気づく。何でこんな日に忘れるんだ、財布を。


「ごめん、財布忘れた。家に取りに帰るから少し待っててほしい」

「いいよ!」

「20分で帰ってくるから、ごめん…教室で待ってて」

「分かった。気を付けて」

「うん。ありがとう」

 俺は、今日遊びに行く約束をしているそのクラスメイトにごめんと手でポーズをして、教室をダッシュで後にした。

 全速力で家に帰り、財布を取り、家にいるお母さんに遊びに行くから遅くなるかもしれないと伝えて、学校に再び戻る。遊びに行くのこの日を心待ちにしていたため、楽しみが少しずつ膨れ上がっていく。

「楽しみだな」

 隠しきれない笑みと一緒に、校門をくぐり、足を急がせていると学校の屋上から何者かが飛び降りる様子が視界に入る。時が止まったかのような感覚に陥る匠。

「誰か屋上から落ちたよな…」

 匠は、急いで人が落ちたと思われる場所に足を走らせる。グラウンドで部活をしている生徒は部活に集中しているばかり、その事態に気づいていなかった。必死の形相で足を走らせる匠。

 はぁ、はぁ…息を整えきれていないのに、大丈夫ですかと声をかける。その瞬間、俺は衝撃で頭を殴られたかのようだった。

「えっ…。 噓 でし ょ 。 な ん で、 水 島 、 水 島 ...」

 クラスメイトの水島花凛が倒れている。戸惑いながらも、花凛の肩を揺すり、必死に声をかける匠。

「しっかりしろ、どうして…」

 俺は恐怖で体が震え始めていた。早く救急車呼ばなきゃ…。救急車を呼ぶために持っていたスマートフォンで119を押し、屋上を見上げる匠。すると、灰色のフードを被った怪しい人物が匠の視界に入る。


「救急ですか消防ですか」

 こんな経験初めてで動揺しつつも、電話の向こうから聞こえる声に、一呼吸おいて答える。

「水城高校の屋上から同級生が落ちたんです。早く救急車をお願いします」

 顔面蒼白のまま、状況説明をする。

「分かりました。すぐ向かいます」

 聞かれる内容にできるだけ正確に答え、会話が終わると、右手で持っていたスマートフォンが垂直に落ちる。あっ、画面にひびが入ってしまった。でも、スマートフォンの画面に入ったひびなんて、気に留める余裕なかった。誰が水島をこんな目に…。怒りを拳に込める。でも、抑えきることができず溢れ出てしまいそうだ。戸惑いを隠そうと冷静と言う鎧をつけていたが、無理そうだ。放課後、遊びに約束をしていたのに、楽しみが暗闇に飲み込まれてしまった。


「み、み、水島、救急車呼んだから…」

 匠が声を震わせながら言うと、花凛が匠の手を掴む。今にも閉じそうな目で俺を見ながら、真っ青な唇で言葉を絞り出そうとしている花凛。

「ありがとう。バイバイ…」

 バイバイのあとに花凛は何か発していたが聞き取れなかった匠。

「えっ、死ぬな。水島、約束しただろ…」

 俺は、首を振りながら、「死んじゃあだめだ…」と心の底から声が枯れるまで叫び続けるも、俺の声が力尽きたのと同時に、水島は微笑み、意識を失ってしまった。

「水島、水島、水島」

 肩を揺さぶっても反応しない。心に短時間で降り積もった絶望を、吐き出すかのように叫びをあげる。我を忘れ、顔面蒼白になっていると、学校の屋上から女子高校生が飛び降りたと聞いて駆けつけてきた野次馬、そして、救急車、警察のサイレンの音が耳に入ってきた。救急車で運ばれていく水島を見て、心の中で必死に助かりますようにと願ったが、その願いは、むなしく砕け散ってしまったのだった。


 これが夢ならどれだけ良かったのだろうか。俺が見た君の最後はなぜか微笑んでいた。君にもう二度と会えないのだと思うと心が壊れてしまいそうだ。もっと早く仲良くなりたかった。そして何で気づかなかったのだろう、初恋を。




 


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