【第8話】ひより日記

「昨日の日記に、シール貼ろうっと」


 だって久々に凄いことが起こったんだから。ひよりは昨日書いた日記を開く。


【新店長の襲来から2ヶ月】★

 ついに2ヶ月過ぎた……私達のピリピリした空気は相変わらずだけど、今日はちょっとだけスカッとした。夕方、バイト先の扉は久々に『変わった音』を鳴らしたの。


 扉を開くと、どこかくたびれたサラリーマンのお客さんだった。その人が書店へ足を踏み入れた瞬間、書庫の鍵が勝手にガチャリと開く。顔色も悪くて驚いたけど、私は即座に案内した。


「ようこそ魔法の書店へ。ここからは貴方だけの空間です、ゆっくりお過ごし下さい」

「いや、ちょっと立ち寄っただけなんだ。ここは初めてだし」


 変わった音がして扉が開くのは魔法の書庫に呼ばれたお客様の合図。久々で忘れかけていたお決まりの挨拶をして書庫への扉を開けると、男性は私から少し距離を取った。


「様子見だけでも構いませんよ。良かったらお茶でもいかがですか?」

「ああ、ありがとう。不思議な本屋だ、書庫があるんだね。なんだか惹きつけられるというか……懐かしいような」


 男性は一度書庫に入るのを断ったが、気になるのか足を止めている。こんな風に来る人は魔法の書庫に呼ばれている人。


 ひよりが白い手袋でドアノブを下ろし書庫の扉を開くと、応接間になっていた。

書庫は二重扉で奥の扉の部屋へ普段は入れないけど、このお客さんがたぶん一人になりたくなくて許可している……さすが魔法だった。


 お茶は既にテーブル脇のキャビネットに準備されている。


「やっぱりすごい……あっ、失礼しました。こちらへお掛けください」


 恥ずかしながら私まで感心しちゃいました。慌ててお客さんをソファーに案内し、用意された紅茶を出した。


 この人……紅茶が好きなのかな。書庫が用意してたからそうだよね。


「こんな古書まで揃ってるなんて。……懐かしい、あ、こんなものまで!?」


 男性は最初の緊張はどこへやら、テーブルにある本を手に取り食い入るように眺めていた。


「お嬢さん、すまない。やっぱりこの書庫見てもいいかな?」

「もちろんです! ごゆっくりどうぞ、何かあればそこにある呼び鈴を鳴らしてください」


 それから私が退出して、暫くすると……男性は穏やかな顔になって書庫から出てくるのだ。


「ありがとう! まだ色々読みたいから、またここへ来るよ。そうだこの栞購入できるかな?」


 こうやって色々な人が、色々なものを抱えて此処へやって来る。最後の穏やかな顔を見れると、こっちまで嬉しくなる。ひよりはお客様をお見送りし、新店長へドヤ顔をした。


 そこまで思い返して日記に星型★シールを貼る。そして万年筆を持ち、付け足した。


★★最初は店長が怪しげ見てたけど、これが魔法の書店の良さなんだから! 最後に「本の栞だけ売れてどうする」とか余計な一言あったけど気にしない。書店のQRコードも作って栞の裏にあるんです~だ。



【今日の一言】→SNSで公開している一言

 学校やお仕事、皆さま今日もお疲れさま! 寒い日が続きますね。温かくゆっくりしてくださいね。


う~ん、今日は豆知識みたいな一言? つぶやきはお休みです!


また明日!

──つづく。



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