【第6話】ひより日記


 昨日、店長にひどい事言っちゃった。どうしよう。でも私、セレーネさんのこと悪く言われるのはどうしても嫌で……


 ここまで書いて、私は「でも私、」から消しゴムで消した。


 お気に入りの朝カフェで美味しいカフェを頼んで、万年筆を置いて記憶を辿る。ブログやSNSはまだ始めたばかりで、更新頻度も多くないからか、その日もお客様は少なかった。


 書店のカウンター席の3脚が埋まると、店長に本棚を1つ退けて机にしたいと言われた。店長は書店を辞めてカフェにしたいらしい。


「客は増えてない。俺のところは地味に増えてるぞ」


 わかってる、実際お客さんが来てカウンターが埋まってるのを見て「また来ますー」って帰っていく人を見るたびに気を遣わせてしまってることは。


 だから渋々本棚の1つ退けた。ここは私の負けだから。中身の本たちは一時保管することになりました。


 保管するため本たちを積んで紐でまとめていたら「これを機に捨てたら良いじゃないか」って言われて……ついにプチンと切れ怒ってしまった。


「よくそんな事言えますね! セレーネさんの孫のくせに何も分かってない。本当に家族なんですか?」


 ってひどい事を言った。……謝ろう。ああ、今日のバイト行きたくないな。いやでも私が悪いから……まさかバイトに行きたくないなんて思う日が来るなんて。


「とにかく謝ろう」


  呟くと頃合いよくカフェ・オ・レがやってきた。さっき消したところに、「とにかく謝る」そう書いて日記を閉じた。


 憂鬱な気分を吹き飛ばすために、いつもより味わって飲んだ。優しいカフェオレの香りがいつもより染みる。


「おいしぃ」


 少し落ち着いてくると、また日記を開いて書き始める。こんな日だってある。そういえば最近【今日の一言】をSNS(X)で投稿しはじめました。


【今日の一言】

 学校やお仕事、皆さまお疲れさまです! カフェオレは心まで温めてくれます。

 憂鬱になった時は、なんにも考えずに美味しいお気に入りの飲み物を飲んでみて? おすすめです。



 それじゃ、また明日ね!

──つづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る