♰Chapter 22:『猫の手部』の進捗
「やーがみ! どーよ、凛の頼み事は順調か?」
放課後になると意気揚々とオレの席までやってきた錦。
どうやら猫の手部の進捗を気に掛けてくれているらしい。
「まあな。猫の手部がまさか本当に猫探しをするとは思わなかったが」
「その反応が見れただけで紹介した甲斐があるってもんだぜ。最初にしてはなかなか洒落の利いた依頼だろ?」
「洒落の甲乙はどうでもいいが、依頼人を探してきてくれたことには感謝しないとな」
「おう。目一杯感謝してくれていいぜ」
「まるで自分一人で探してたみたいな言いようだね? わたしも色々探し回ったんだけどな~」
笹原の冗談めかした圧に、胸を張っていた錦もたじたじだ。
彼女と同じくして水瀬も合流する。
「そうよ。笹原さんもたくさん声を掛けてくれてたんだから」
「ももももちろん、笹原もめっちゃくちゃ頑張ってたぜ⁉ な⁉」
なぜオレに同意を求めるのか。
「いやオレは彼女の隣りにいたわけじゃないんだが……」
「くっ……そうだった……。待てよ。てことは俺しか笹原の努力を認めてやれる奴はいないってこど――っ」
笹原の手が不意に消えたかと思えば、錦がくねくねと気持ちの悪い動きをしている。
恐らく死角からつねられてでもいるのだろう。
「まったく……錦くんは調子よすぎだよ。しばらくお座り!」
「くうん……」
完全に笹原にリードを握られている様子だ。
まるで漫才コンビのような二人だが、だからこそ慕われる学級委員なのかもしれない。
「水瀬さんから聞いたよ。まさか周防くんの探し猫が北棟の幽霊の正体だったなんてね……。意外と世間って狭いよね」
「そのおかげで記念すべき一つ目の依頼が解決できるかもしれないんだ。と言ってはみたが……実はあれからまだ姿を見てないんだ」
オレは東雲と所用があったため、昨日の部活は休んだ。
だが水瀬は猫の居場所の候補地を一つ一つ回っていたらしい。
「私は昨日から色々と見て回ったけどそれらしき痕跡は見当たらなかったわ。あとは残りを回って見つけられなければ改めて敷地外にも目を向けるべきかもしれない」
「ふむふむ……ところで万が一の秘策があるのですが!」
笹原は目を輝かせている。
そして思えばその片手はずっと後ろに回されている。
水瀬と目が合うが、彼女も特には知らされていないようだ。
「じゃーん!」
「……“猫缶”」
「確かに脱走してから数日になるものね……。お腹が空いてエサを探している頃かもしれない」
「ふふん! そういうこと! これをどこか広くて風上な場所に置けばきっと見つかるよ!」
自信満々な笹原に錦が補足を加える。
「風上か……なら屋上がいいんじゃねえか? 高い場所の方が匂いも遠くまで届くだろ。それに猫がまだ校舎内にいる可能性もあるからな」
錦のまともな言葉に笹原も頷く。
「だね。じゃこれは水瀬さんに渡しておくから、後は頑張って!」
「二人は来ないのか?」
「わたしたちも自分の部活があるからね」
「そういえばそうだな。ちなみに二人の部活は?」
「わたしは合唱部で」
「俺が軽音部だな! ちなみに俺は某アニメに憧れて入ることにしたんだ」
某アニメというのが気になるがあいにくとオレにはそこまでの知識はない。
ともかく二人は忙しい合間を縫って協力してくれているのだろう。
「紹介のことと言い、猫缶のことと言い、二人ともありがとう」
「ああ、本当に助かる」
水瀬の言葉にオレも追随する。
それを聞いた二人は顔を見合わせて爽やかに笑った。
「俺たちはもう友達だからな! 友達のために何かをしてやるのは当たり前だ!」
「そうだよ~! きっと上手くいくから頑張って!」
それから二人は一つの猫缶を残して教室を去った。
「私たちも早速仕掛けに行きましょうか」
「ああ」
友達。
友達、か。
ひどく曖昧な定義の言葉に彼らがどれだけの信頼を置いているのか。
どんな存在をそう呼ぶべきなのか。
興味を引かれるところではあるが、またいつか聞いてみようと思うのだった。
――……
「これでよし」
水瀬が猫缶を開けるとそっと置く。
今日の風向きがやや南寄りからだったため、南棟の屋上に仕掛けることになった。
「あとは昨日水瀬が回り切れなかったところを回ってみるか」
「そうね。ええと、東棟、西棟、南棟、北棟、図書館は回ったから……残りは寮と体育館裏ね」
オレと水瀬は早速体育館から回ることにする。
体育会系の部活の掛け声がよく木霊している。
体育館の扉は半分ほど空いており、そこから声と振動が伝わってきているのだ。
「凄い熱量だな……」
「それはそうよ。凪ヶ丘高校は運動部も文化部も実績を残している部活がほとんどだから。結構有名なはずだけど……八神くんはどうしてこの高校に進学したの?」
水瀬は体育館周りの下駄箱や運動部の部室周り、木陰などを探しながら、そう尋ねてくる。
「オレか? ……考えたこともなかったな」
「まさか適当に進学したの?」
「……まあな。特に行きたい高校もなかったからオレの保護者……に決めてもらった」
言い淀んでしまったのは保護者と呼んでもいいものか悩んだからだ。
オレは小さい頃に親を亡くしている。
それから紆余曲折あって暗殺組織に引き取られ、暗殺の師に出会った。
その師こそがオレの身元引受人――いわば保護者なのだ。
その彼女も任務中に失敗、すでにこの世にはいないが。
「八神くんの保護者……ふふ、想像するだけで楽しいわね」
「今の話にそんなところがあったか?」
「八神くんほど表情が動かない人はいないもの。そんな貴方を育てた人がどんな人なのか少し気になったの」
オレに両親がいないと言っても変に気遣われるだけだろう。
それに〔幻影〕での相棒であったとしても、何のメリットもなくオレの抱える事情まで打ち明けるつもりもない。
当たり障りなく質問を返しておくのが無難だ。
「そういう水瀬のご両親はどうなんだ?」
「私? 私の両親は活発でアウトドアが好きだったわね。いつも週末は私を連れてどこかに出かけていた気がする。もうあまり覚えていないけどね」
そのセリフ回しに彼女の両親はもういないのではないか。
そんな推測を立てるがオレに話が戻ってくる可能性もあるため、深堀は避ける。
「もうここら辺は大方探したわね。八神くんは何か見つけられた?」
「特にはないな。目立った足跡もない」
「そう……なら次、寮の方へ行きましょうか」
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