♰Chapter 5:放課後の勉強会

放課後になると水瀬と校舎から少し離れた図書室へと向かう。


凪ヶ丘高等学校の図書室はその名称が相応しくない。

ずばり娯楽小説から専門書に至るまで蔵書数が豊富なため、大学にも匹敵するのだとか。

よってその名称に相応しいのは図書館だろう。


普通の学校にはまずないであろう一階から三階までが吹き抜け構造になっており、階段で上階・下階へ行くことが可能だ。

温かみのあるオレンジ色の照明にブラウン調に統一された机・椅子・本棚が並んでおり、加えてレッドカーペットも敷かれている。


また、比較的本棚が配されていないフリースペースはガラス張りになっており、陽光を効率よく取り込んでいる。

日差しによる蔵書の劣化を抑えつつも、開放的な空間を意図してこの場所が生まれたのだろう。

滅多にお目にかかれないほど充実した施設っぷりだ。


そして中間試験までのカウントダウンが始まった今はそれなりの利用者がいる。

なかには趣味の小説を読んだり、机に腕を投げ出してダウンしている生徒も見受けられるが。


「お待たせ。司書の先生によると今日は午後七時まで使えるそうよ。ただ所用でこの後すぐから席を外すみたい」

「そうか」


窓際の席に座るとやむなく鞄の中から適当なノートと教科書を取り出す。

無造作に引っ張り出されたのは古典だ。

本当は数学がよかったが科目ガチャで出てしまった以上、仕方ない。


「水瀬、気が進まない」

「……逃げようとしているの?」


水瀬からのジト目が刺さり、オレは大人しく諦める。


「最初に会ったときとは少し変わったな。図太くなったというか」

「何か言ったかしら?」

「いやそれ自体はもともと細くて折れそうだったお前にはよかったのかもしれないな」

「……あえて聞こえないふりをしていたのにとどめを刺しに来たわね……」

「勉強会に付き合わされることへの意趣返しと思って許してくれ」


オレは冗談交じりの会話をこなしつつ、問題を解いていく。

あやしは神秘的、おかしいなど。

すさまじは興覚めだ、殺風景だなど。


水瀬の方も順調に解き進んでいるようで特に学力の問題はなさそうだ。

単語の意味から文章題もいくつかこなしたところで小型端末のバイブレーションを感じた。

このタイミングは恐らく情報屋のℐだろう。


「悪い。少し席を外す」

「何か用事でもできた?」

「ただの手洗いだ」


多少の雑談を挟みつつ取り組んだが水瀬から質問が出なかったあたり、勉学は秀才という結論を出す。

少しの間、席を空けても彼女が困ることはないだろう。

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