第6話 幻想的な朝

 朝、6時に店で待ち合わせた。こんなに早く起きたのはいつぶりだろうと考えながら、ここに居る自分をなんだかおかしく思えた。

 ユリさんは僕の顔を見ると、早く起きられたことを喜んだのだろう、少し上目遣いで微笑んだ。


 僕らは朝の散歩に出た。ユリさんの散歩は幻想的だった。絵の中に吸い込まれていくようで、僕は少し怖さも感じた。何も語らず歩いた。舗装をしていない道は歩くと音がした。朝日が雲の間から光を刺し、明るさが増してきた時ユリさんは静かに語った。

 “東に向かって歩き始め、太陽を感じ、朝靄に光が当たる様子を見ながらさらに歩く。・・・空気を感じ・・・そして小さな池に着く。そこで、今日もよろしくお願いしますってお祈りして・・・そして帰路に就く。背中から太陽を感じ、季節を感じる。自然と会話できる私の好きな時間”と・・・。

 僕は散歩というものを始めてした。自然を感じるのも初めてだった。道すがら深呼吸を何度もした。鼻の奥が痛くなるような空気と草木の香りが何度も何度も僕の鼻を刺激した。そして自分の身体が浄化していくことを感じた。僕はこの時、軽井沢の朝とユリさんを少し知った。


 ユリさんは僕を折に触れて色々なところに連れて行った。僕の五感を鍛えるためだと言って何だか楽しんでいる。僕はユリさんの誘いを断らなかった。そして行くところ行くところで様々な初めてを知った。そして僕はもう一つユリさんからもらっていた。・・・恋することを。


 初めは、オヤジと同じだと思った。僕のことを心配してくれるやさしい人。でも、徐々に僕の中でそれが変わっていった。時折見せる彼女の屈託のない笑顔は僕の心を揺さぶった。一見強く見えるけど、本当は寂しがり屋で人恋しい女性なのだ。そんな自分を知られないように振る舞っているユリさんを僕は愛おしかった。 

 そして、この人は僕のことをどう見ているのだろうと考えるようになっていた。

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