第5話 優しい提案
次の日から僕の生活は変わった。朝、店に行きモーニンクをゆっくり食べてそれから書斎にこもった。初めはキョロキョロして落ち着かなかったが、少し窓を開けて外の空気を入れ、机にパソコンを置いて椅子に座るというルーティーンが僕を落ち着かせた。
別荘に居るときは静かすぎたが、ここでは店からかすかにBGMが聞こえ、たまにお客さんの笑い声などが聞こえる。それをうるさいとは思わず、人を感じて心地よかった。そして女性はお昼にまかないとポットにコーヒーを持ってきてくれた。わざとまかない風に仕上げ、僕に気を使わせないようにしている女性の心遣いが嬉しかった。
ここに来てからは書けるようになり、ちゃんと編集者にも連絡を取って締め切りにも遅れずに済んだ。
ある日、お店の閉まった5時過ぎに食べ終わった皿とポットを持って一階に降りた。すると女性は、“良かったら夕飯を付き合って”と言ってきた。驚く僕に“一人で食べるの寂しいし、1人前作るのも2人前作るのも一緒だから”と言ってくれた。最近夕飯は道すがらある小さな店でおにぎりを買って食べていただけだったので、僕には嬉しい提案だった。
女性の作る夕飯はいわゆる家庭のモノだった。焼き魚や肉入り野菜炒めなど、奇をてらったものではなく地のモノ・季節のモノを使っていた。それがなんとも心地よかった。オヤジも3食食べさせてくれたが、殆どが店の残り物で味が濃かった。女性の作る料理はもっとやさしく腹も心も満たされていった。
夕飯を一緒に食べるようになってから、話すことが増えた。
女性の名はユリ。僕はユリさんと呼ぶことにした。ユリさんは僕の
そしてユリさんはは朝の散歩に僕を誘った。
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