第3話 樹々の中の喫茶店

 古い木と塗壁のその建物は樹々の中にあり、前にオヤジから借りて見たフランス映画を思い出させた。どんな人がやっている店なのか、不安に思いながらも僕は店の扉を押した。


 木の扉は思っていたより重かった。ギーっという音がして入ると女性は僕を見て“お好きなところにどうぞ”と言った。客は誰もいなかった。店内を見回していると、“外のテラスも気持ちいいですよ”と言ってくれた。僕は二人きりの店内もなんだかイャだったので、せっかく入った建物からまた重たいガラス戸を開けて外に出た。そして店内から死角になっているテラス席に座った。


 僕よりもあきらかに年上と思える女性は、お水とメニューを持って来た。僕はメニューを見る前にモーニングを頼んだ。すると女性は“この時間はもうモーニングはやっていないの”と言った。たしかにもう14時だった。だから僕はカフェオレとなにかパンを、と頼んだ。フッと笑って女性は立ち去ったが、しばらくすると“特別よ”と言ってカフェオレモーニングを持ってきてくれた。

 僕は久しぶりに人が作ったものを口にした。


 それから毎日、僕はその喫茶店に通った。女性は僕が毎日14時位に行くのにモーニングらしきものを提供してくれた。そしてついに数日後に“この時間にしか起きられないの”と聞いてきた。僕はうなずくと女性は“軽井沢は朝が一番いい。そんな朝を知らないなんてもったいない”と言った。その言葉が気になり、僕は軽井沢の朝を知ることにした。


 3日をかけて僕はやっと朝といえる時間に起きることが出来た。

 喫茶店に行くと僕の顔を見て女性は微笑んだ。そしてその日、僕は本当のモーニングを食べた。それはいつものに増して美味しかった。皿を下げに来た女性に、美味しかったと告げると、“朝だからよ”って僕の目を見て微笑みながら言った。

 それからは毎日正規のモーニングを食べられる時間に喫茶店に行った。

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