第三話 呪いの申し子

「俺とお前は同類……というより、同じ生き物だ」

「ええ、ホモ・サピエンスです」

「そうじゃない」

 武槍たちばなの回答はバメイにとっては的外れだったようで、呆れたため息どころではなく頭を抱え始めた。

「俺たちは人間の形をしただ。人間人外関係なく機能と役目を持って生まれた、人間の根源とは相入れないモノだ」

「私は異性と関係を持てたが」

「贋作であっても本物と同じ材料を使って職人が作れば本物と遜色ないだろう。それと同じで、俺たちはを持って生まれただけの限りなく人間に近い物体だ」

 バメイの言葉に要領を得ないようで、武槍は変わらず首を傾げながら手の中の椀で遊んでいる。時々ランスロットやトリスタン、ルーカンの顔を見るも、助け舟のような回答はもたらされない。

「私は普通に両親から生まれたし、育った環境も人間が育つものだったし、戸籍だってあるんだが」

「一族そのものにを持つことだってある。日本だと神職の家系にがいることが多いな」

「はあ……」

「話を理解する気がないだろ」

「まあ、今まで普通に生きていたのにいきなり『お前は人間じゃない』と言われても理解は追いつきませんね」

「普通……?」

 武槍の過去は大人であれば誰でも知っているもので、武槍の発言にトリスタンが首を傾げる。それに釣られてバメイとルーカンが僅かに吹き出す。その状況をランスロットだけが理解できていなかった。

「呪物は役目あるいは呪いを与えられ、それを生きることによってこの世界にくさびを残すものだ。お前の場合は……まあ役目と呪いの両方を背負っていると言った方がいいか」

「いきなり与えられた情報量が多すぎて処理し切れないのですが」

「ここで話す内容を全て覚えろ。理解は後からでもできる」


 と呼ばれるもの達は、人ならざるものから役目と機能を与えられて誕生する。その大半は土地やモノであるが、時折生物の形を取り、生物と全く同じように生きるものがいる。

 呪物を生み出す人ならざるものはまっさらな生物を母体として誕生させることもあり、両親共に人間であったにも関わらず生まれた子供は役目や機能を背負うこともある。

 と呼ばれるもの達は自分たちがであると自覚することはほとんどない。自覚した者達は大抵が役目や機能から背いたものであり、魔女や魔法使いによって教えられて初めて自覚するというケースも存在する。

 人間がを生み出せるのは土地やモノだけであり、生物に役目を背負わせることができるのは魔女あるいは魔法使いのように人間から逸脱したものである。人間にを造ることはできない。

「……つまり、製造者が人外であると?」

「人ならざるもの、ここで言えば人間を超越した存在の意思が混ざり込んだらその時点で呪物になる」

「なら、呪物として生まれた者の子供もまた呪物となるのですか?」

 持っていた椀と箸を起き、裾を指先で整えてバメイに向き直る。

「呪物としての役目を終えていなければ、そうなるな。一代で終わるものもあれば、数世代に渡って果たさなければならないもの、あるいは終わりでようやく役目を果たすものもある」

「では、私の呪い、役目は」

「まだ終わっていない」

「ならそれが何か教えてください!」

 今にもつかみかかりそうな勢いの武槍に、トリスタンが慌てて落ち着くように肩に手を置いて諌める。それでもいつでも立ち上がれるように床に手をつき、片足は爪先を立てている。

「残念ながら、それは言えない」

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