第二話 呪いの定義
「とりあえず、俺はキャメロットにおいては要人の扱いってだけだ。そこまで重要ではないから気にするな」
「はあ……」
苦し紛れのバメイの誤魔化しに、
空になった椀を両手で支えながら、武槍は話し込むバメイとトリスタンを眺める。一言二言会話を交わしては、何かを確かめるように静かになり、また会話を交わすその光景に、目の前の現実をどこか遠い絵画のように眺めていた。
武槍の隣にいたはずのランスロットはいつの間にか席を立ち、未だに眠り続ける沙穂の様子を確認していた。
「彼女は大丈夫かい」
「ああ、今は一時的に眠っているだけだ。俺を呪おうとした反動が一番大きいだろうな」
「今更なんだが、呪いとか魔女とみんなが言っているが実際はどういうものなんだ?」
武槍のその言葉に、話し込んでいたバメイとトリスタンが静かになる。沙穂の傍にいたランスロットも口を黙み、言葉を選んでいるのか視線を逸らしている。
「武槍さんはそういえば一般人でしたからね。僕が説明します」
沈黙を破ったのは赤毛の青年、ルーカンだった。
魔女とは妖精、すなわち人ならざるものの血を引く者である。血を引いているから魔女ではなく、その血から才能に目覚めて初めて魔女となる。魔女という呼称に男女の区別はなく、男性であっても才能に目覚めたなら魔女として生きることとなる。
魔女の類義語である魔法使いは、世間一般では魔法を使う男性の呼称として使われることが多いが、魔法と魔術の跋扈する世界では魔女として生きる者たちの祖先、最初に人外の血を引いた人間を指す。
「ここまでがおおよその魔女と魔法使いの分類です」
「なるほど、じゃあ君たちも魔女ってことか」
「そうですね、どのような妖精の血を引いているかはわかりませんが、私も、師匠も、ランスロットも魔女と定義されます」
魔女はただ血を引いて生まれただけでは才能に目覚めることはない。子供が最初から邪悪なものであることが少ないように、最初から魔女として生まれるものはいない。
「妖精の血を引いた人間が魔女となるのは、明確な線引きがあります」
幼少のうちに自分を呪った者が魔女となる。
「幼少期に過酷な環境に置かれた場合に、自分をどういう生き物かと定義し、それが自己を縛る呪いとなって初めて我々は魔女になります」
「魔法使いはどうなるんだ?」
「魔法使いはただ親が人ならざるものであるだけで魔法使いになります。基本的には同じ親を持つ兄弟が生まれることはなく、完全にオリジナルの雛型として魔女の血統の祖に立ちます」
「難しいんだな」
「簡単ですよ。人外の血を引いた一世が魔法使い、二世から先が魔女の可能性です」
「なるほど」
幼少期に呪いによって己を定義づけた魔女は、扱える魔法がそれによって決定される。例えば炎に強烈なトラウマと呪いを得た魔女は炎が扱えるようになるように、その呪いが魔女の強さの原点となる。
「だから魔女は基本的に自分がどのような魔法を扱えるか、というのを秘匿します。その魔法の根元に呪いがあり、そこに自身の弱さがあるからです」
「一長一短、ってところか。……君たちが魔女なのは分かったが、バメイさんと沙穂さんは何者なんだ?その話ぶりだと、魔法使い、でもなさそうだが」
「お前、気づいていなかったのか」
「え?」
武槍の言葉に、バメイは呆れた様子でため息をついていた。
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